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2022.01.26

愛がたりない だからこの大学がある

シリーズ徳山詳直その1~東北芸術工科大学で学べること~

かいぎさん
徳山詳直先生のつくった東北芸術工科大学

徳山詳直先生のつくった東北芸術工科大学

みなさんは徳山詳直という方をご存知ですか?

私の通う東北芸術工科大学の創立者なのですが、とても破天荒でチャーミングな魅力あふれるおじいちゃんです。残念ながら2014年にお亡くなりになっていて、私はお会いすることができなかったのですが、人物像や理念などを3回シリーズの記事で紹介していきます。まず第1回目は、徳山先生がお作りになった東北芸術工科大学の授業を中心に紹介します!

愛は想像力だ

廊下の誰もが目にするところに掲げられています。左にあるのは設立宣言

廊下の誰もが目にするところに掲げられています。左にあるのは設立宣言

東北芸術工科大学(通称:芸工大)本館の1階に入ると、まず目につくのは「愛がたりない」「だからこの大学がある」と書かれた大きな書です。

徳山先生は常々「愛が大切である」とおっしゃられており、自分以外の人に対して思いやりをもって、相手のことを想像して接することで、世の中で起きている様々な課題が解決すると考えていらっしゃいました。世の中にこの想像力が足りていないから、紛争や貧困問題や様々な社会問題があり、平和にならない。「藝術によって豊かな想像力を持った若い人を育もう」と考えてできた大学が、東北芸術工科大学です。
徳山先生が芸工大を作るに至った理念のお話は、詳しくシリーズ3回目でご紹介します。

IFAOを学ぶ大学

「藝術を学ぶことで豊かな想像力を身につける」と言うと、すごく感性的な話に聞こえてしまうかもしれません。藝術的才能がないとできないことのように感じてしまうかもしれません。でもそれは違います。芸工大では様々な授業で学ぶことで、豊かな想像力を身につけて、愛に溢れた人間になれるようにカリキュラムが組まれています。

キーワードは『IFAO』です。これは、Input[インプット](情報を入力すること)、Feel[フィール](得た情報を感じること)、Analyze[アナライズ](情報を分析すること)、 Output[アウトプット](感じたことと分析をしたことを基に出力すること)の頭文字を取った造語です。

藝術大学と聞いて多くの方がイメージをするのは、主に絵画や彫刻などのアウトプット(出力)の技法を学んだり、技術を向上させたりすることだと思います。もちろんこれらも演習の授業で学んでいますが、演習の授業でもO以外のIFAの3つがとても重要に扱われていて、体感としては私達が受けている授業の7割以上がO以外の3つの技術を身につけるために割かれているように感じます。

いろいろな授業を受ければ受けるほど、IFAを正しく深く詳細にできるようになることこそが想像力を豊かにすることであり、それができてはじめて質の高いアウトプット(出力)=創造ができるということだと理解できてきます。
ではどんな授業でそれが学べるのか、ほんの少しですがご紹介します。ご紹介する授業は1年生の前期に全学生の必修科目になっているもので、単位を取れないと再履修になってしまいます。大学がどれだけ重要視しているか、気合の入り方が感じられます。

芸術平和学

徳山先生の掲げている理念をそのまま授業名にしたような象徴的な授業です。毎回、大学の内外からゲスト講師を招き、基本的には科学技術に対して批判的な立場から様々な事象や問題などと藝術の関わり方のお話をしていただきます。
私の感覚ではこの授業では主にIとF、情報を取り入れて自分がどう感じるかに重きを置いていると思います。

例えば、AI(人工知能)が発達していくと、近い将来人間の能力を超えることは既に大体の計算でわかっています。「その時に人間はどうあるべきか何をすべきか」というテーマの授業がありました。
ここで重要なのは、このことに対して無関心にならずに、積極的に情報をインプット(入力)して、自分がどうフィール(感じて)いるのかを深くしっかりと感じることです。
もちろん私にはこの事象を直接的にどうすることもできませんが、ドラえもんみたいな優しいロボットが出てきて、ぐうたらで寝てばかりで部屋の片付けもまったくできない“のび太くん”な私を助けてくれればいいなと、心の底から強く感じました。心の底からです。

AIに助けられてますますぐうたらする私

AIに助けられてますますぐうたらする私

「え?そんなことでいいの?」と思うかもしれませんが、それでいいのです(自己弁護ではなく)。情報に対して何かを感じている自分をしっかりとハッキリと感じることが、アナライズ(分析)やアウトプット(出力)につながっていきます。興味や関心がないことは分析しようとは思いません。自分事として感じられる感性や感度を高めることが重要です。
と、言いつつも、AIの発達にはデメリットもあります。メリットばかりを想像していては大学生としてはレベルが低いので、功罪両方を考えなくてはなりません。

想像力基礎ゼミナール

その名もズバリ「想像力基礎ゼミナール」です。この授業は、主にアナライズ(分析)の力を鍛える授業だと思います。
例えば、Googleストリートビューを使って自分の行きたい国や場所に旅をして、現地にいる人たちを想像して、オリジナルのマスクを作ってあげる、という授業をしました。

Googleストリートビューを使って、世界中のいろいろな場所を旅することができる

Googleストリートビューを使って、世界中のいろいろな場所を旅することができる

ただ単に好きなところやきれいなところを見るのはフィール(感じる)止まりなのでだめです。そこにどんな人が住んでいて、どんな生活があり、どんな気候で、どんな歴史があり、どんな課題があるかということを『想像』してアナライズ(分析)をして、その課題を解決するマスクの企画をしなければなりません。私はオーストラリア・シドニーのヌーディストビーチを選んでしまい、素っ裸でマスク?となって大変苦労しました(笑)。

みなさんならどんな場所に行ってどんなマスク(その他の物でも構いません)を作りますか?思い込みではなくて、きちんと調査とアナライズ(分析)をすることが重要です。ぜひやってみてください。

日本語表現

普段から当たり前に話したり、書いたりしている日本語をもう一歩深く学んで、自分の表現したいように表現できるよう、伝えたいように伝えられるような技術を習得する授業です。
例えば、好きな漫画や映画、小説、歌などの作品タイトルや文章を挙げて、どういうところが好きなのかを他の学生や先生に説明するという課題をやりました。

これを行うためには、インプットした好きな作品をどうフィールして(感じて)いるか再度自分の中で深く確認をして、その作品を知らない人にもわかるように客観的にアナライズ(分析)して、最後に感性的なことも分析をして導き出した論理的なことも両方伝わるように、どのようにアウトプット(出力)するかを考えなくてはなりません。独りよがりな説明では伝わりません。

このようなプレゼン資料を画面に映しながら、自分の言葉で伝えていきます。みんなの反応が怖くて緊張します

このようなプレゼン資料を画面に映しながら、自分の言葉で伝えていきます。みんなの反応が怖くて緊張します

私はアニメ映画『君の名は』の主題歌で有名になったRADWIMPS[ラッドウィンプス]の『前前前世』を挙げました。『前前前世』というタイトルは、前の前のもっともっと前の前世、ということを表現した言葉ですが、言葉のリズム感の良さとものすごく長い歴史を感じさせる言葉のニュアンスが好きだという説明をしました。

みなさんも自分の好きな言葉や文章について、誰かに説明をするつもりで改めてIFAOしてみると新しい発見があるかもしれませんよ。

【学生会議】愛を持った学生を育て世界を平和にする

いかがでしたでしょうか?東北芸術工科大学が藝術を使って、愛と想像力を持った学生を育成していることが感じていただけたでしょうか?
世界の課題は何か、日本の課題は何か、山形の課題は何か、我が家の課題は何か。会社のプレゼンテーションでも、この記事を書くのにも、作品を作るのにもありとあらゆるレベルの課題はIFAOの力が磨かれてないと解決することができません。私もIFAOの精度がまだまだ低いです。もっともっと力をつけて、困っている地域や人を想像して解決できる人材になりたいと思います。なんでもかんでも「助けてドラえも~ん」と甘えているわけにはいかないのです。(部屋の片付けだけなんとかお願いしたい)

~その2につづく~

この記事を書いた人
斎藤天音

斎藤天音
Profile 山形学生会議編集長。山形県白鷹町出身。東北芸術工科大学 芸術学部美術科総合美術コースに在籍しながら個人事業「天音印」を開業。ディレクター、アーティスト、クリエーターとして精力的に活動中。
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