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2021.10.29

県内初・アニメーション科目と、ボランティア活動から探る「多様性の泉」

東海大学山形高等学校

総合学習コース・アニメーション科目の3年生のみなさんと担当の鈴木敏嗣先生 ※撮影時のみマスクを外していただいております

総合学習コース・アニメーション科目の3年生のみなさんと担当の鈴木敏嗣先生 ※撮影時のみマスクを外していただいております

医学をはじめ幅広い学業からスポーツまで、さまざまな好奇心を持つ生徒が集い、多様性に満ちた学びができる東海大学山形高等学校(以下・東海大山形)。中でも、総合学習コースの学校設定教科「人間力探究科」にアニメーション科目が2020年4月に創設されたことは記憶に新しいところです。そんな魅力あふれる同校のアニメーション科目とボランティア活動について取材しました。

全日制商業科の一橋商業高等学校を前身とする創立65年あまりの東海大山形。山形市蔵王の西、成沢に位置する同学園は2017年に新校舎となり、大学のキャンパスのような自由でアカデミックな雰囲気

全日制商業科の一橋商業高等学校を前身とする創立65年あまりの東海大山形。山形市蔵王の西、成沢に位置する同学園は2017年に新校舎となり、大学のキャンパスのような自由でアカデミックな雰囲気

美術の授業の作品が展示された美術室前。アニメーション科目もこちらで受講します。総合学習コースの2年次からはじまる「人間力探究科」では、情報ビジネス・自然・福祉・スポーツ・アニメーションの5科目から自由に選択できるそうです

美術の授業の作品が展示された美術室前。アニメーション科目もこちらで受講します。総合学習コースの2年次からはじまる「人間力探究科」では、情報ビジネス・自然・福祉・スポーツ・アニメーションの5科目から自由に選択できるそうです

山形県内初の普通高校によるアニメーション科目での学び

「東海大山形の総合学習コースには、多様な進路を目指す生徒が集まります。自己の興味・関心を引き出し、視野を広げることを目的に、選択科目の一つとしてアニメーションを取り入れました」と話すのは担当する鈴木先生。山形国際ムービーフェスティバル(YMF)がきっかけで、理事長や校長先生たちの働きかけにより新科目創設が始動します。かつて宮崎駿さんや高畑勲さんが所属し、『ルパン3世カリオストロの城』などを制作した株式会社テレコム・アニメーションフィルムと、映画『STAND BY ME ドラえもん2』などを手がけた株式会社白組が授業をサポートすることになり、プロのアニメーターからオンラインによる講義を受けながら、鈴木先生の指導のもと生徒たちは2年間、技術を磨いていきます。普通高校の常設コースで、2年間合計280時間もアニメーションが学べるところは全国でもほかに類を見ません。

2年生の授業はこの日、切り紙で表現したアニメーション作品を生徒が思い思いに発表。それぞれアドバイスを受け、次の制作課題を見つけます

2年生の授業はこの日、切り紙で表現したアニメーション作品を生徒が思い思いに発表。それぞれアドバイスを受け、次の制作課題を見つけます

2年生の授業ではアニメーションの基礎や概念を教わります。原画・動画の作画をはじめ、切り紙やクレイ(粘土)によるモデルアニメーション(コマ撮り)を学び、体験。実際、生徒たちに聞くと10秒程でも200コマ以上も撮影しているそう。普段何気なく見ていたアニメを完成させるまでの大変さを実感してからは、つくり手側の視点でも見ることができるようになったと生徒たちは口々に言います。動きにメリハリをつけたり、なめらかに動かすために多く撮影したり、それぞれ工夫をして作品づくりにチャレンジしています。

アニメーションのオープニングは、粘土でつくります。タイトルの文字をつくり、次に丸め、それが徐々に動物形となり、動き出すというもの。コマ撮りをし、再生と逆再生で編集していきます

アニメーションのオープニングは、粘土でつくります。タイトルの文字をつくり、次に丸め、それが徐々に動物形となり、動き出すというもの。コマ撮りをし、再生と逆再生で編集していきます

アニメーション本編では、切り紙でストーリーに。実作業は切り紙を制作した後、オープニング用のクレイアニメを制作しているため、計画性がとても重要

アニメーション本編では、切り紙でストーリーに。実作業は切り紙を制作した後、オープニング用のクレイアニメを制作しているため、計画性がとても重要

粘土の変形する様子は、ラフイメージをフローチャートに記入。切り紙では関節の動きを本物に近づけつつも、デフォルメやかわいい動きを追加しアニメらしさをそれぞれ表現していました

粘土の変形する様子は、ラフイメージをフローチャートに記入。切り紙では関節の動きを本物に近づけつつも、デフォルメやかわいい動きを追加しアニメらしさをそれぞれ表現していました

2年生はアイデアからラフ、作画、撮影、編集まで制作の流れを身に付けます

2年生はアイデアからラフ、作画、撮影、編集まで制作の流れを身に付けます

3年生は修学旅行をテーマにアニメーションを制作

トレース台にライトが点くと、生徒さんたちの“アニメータースイッチ”もオン

トレース台にライトが点くと、生徒さんたちの“アニメータースイッチ”もオン

2年次に個人の技術を磨いた3年生は12名。今度はチームとなって1つの作品を1年間かけて仕上げます。コロナ禍で中止となった修学旅行を題材として、3つの班に分かれて企画を提案。「アニメーションの中で、旅をする疑似体験を、一緒に行くはずだった3年生のみんなをはじめ、同じような思いの人たちに届けたい」―そんな願いを胸に、彼らは黙々と作業を続けます。

絵コンテのカットNO.ごとに作画・動画・仕上げの担当を記録し、班ごとに進捗を管理。それぞれの担当する枚数など、情報の見える化をしています。実作業では2年生で学んだ基礎が活かされています

絵コンテのカットNO.ごとに作画・動画・仕上げの担当を記録し、班ごとに進捗を管理。それぞれの担当する枚数など、情報の見える化をしています。実作業では2年生で学んだ基礎が活かされています

鈴木先生が班ごとに周り、生徒たちの作画をオンラインで講師の方にチェックしてもらう様子。プロ目線のアドバイスに、生徒たちの真剣に耳を傾ける姿が印象的

鈴木先生が班ごとに周り、生徒たちの作画をオンラインで講師の方にチェックしてもらう様子。プロ目線のアドバイスに、生徒たちの真剣に耳を傾ける姿が印象的

この日、オンライン授業の講師を務めていたのは現役アニメーターである垣内由加利さん。この授業についてこう話します。
「モデルアニメーションの魅力は、ものを触って動かす面白さがあります。それは運動にも似ていて、練習を重ねてフォームがよくなる、球が打てるようになるといった“成功体験”をするとさらに楽しくなります。どちらも基礎練習がクリアできると、それからもっと上手にできるように工夫が生まれるのと同じことです」。
2年生は、アニメ―ションにより多くの興味を持ってもらうように進めているんだとか。テイクを重ねるうちに次はもっと面白くなるようにチャレンジしていく―。学生の頃の成功体験が、将来とても役に立つと大人になって気づく人も多いはずです。
また、垣内さんによると、この科目のカリキュラムにおいて2年生のうちにアニメ―ションづくりのさまざまな作業を経験することも大切だといいます。
「3年生はチームで作業を行います。工程管理の中でその作業量を理解していれば、作業の指示を出す時にスケジュールがイメージできますよね。作業の大変さをわかっていないと、仲間に無理強いをさせてしまうことになりかねません。アニメーションの基本だけでなく、どこでも通用するチークワークの大切さを学べます」。

「将来この道に進まなくても、学生の時に得意なものがひとつでもあったら面白いと思うんです。自分ができることで周りに貢献できたことを、自信につなげてほしい」とアニメーターの垣内さん

「将来この道に進まなくても、学生の時に得意なものがひとつでもあったら面白いと思うんです。自分ができることで周りに貢献できたことを、自信につなげてほしい」とアニメーターの垣内さん

生徒の成長を誰よりも近くで見守る鈴木先生も次のように話します。
「ものづくりの現場には、それぞれ工程があり作業があり、ひとつの作品ができあがります。その流れを彼らがいちばん興味のあるものから学んでもらえたら」。

(左から)総合学習コース3年の梁田歩夢さんと川口拓真さん。それぞれ、アニメーション科目を目的に東海大山形に入学。梁田さんは県内の旅館業、川口さんはアニメーターかイラストレーター志望とのこと ※撮影時のみマスクを外していただいております

(左から)総合学習コース3年の梁田歩夢さんと川口拓真さん。それぞれ、アニメーション科目を目的に東海大山形に入学。梁田さんは県内の旅館業、川口さんはアニメーターかイラストレーター志望とのこと ※撮影時のみマスクを外していただいております

梁田さんは、アニメ業界に進むのではなく、人とのコミュニケーションが好きということで、県内の旅館業に就職を希望(なんという親孝行!)。「好きなものを学びたいという気持ちでこの学校を志望。企画やスケジュール管理が勉強になりました。授業では“1秒をつくること”がこんなに大変なのかを実感しています。日本の文化としてもアニメは誇り。今回のアニメーションでは、理想の修学旅行を描きたいです」
小さい頃は『ドラえもん』、中学では友人からの影響で『進撃の巨人』を観ていたという川口さん。「いちばん苦労しているのがやはりスケジュール管理。段取りでいつも頭を抱えています。それでも、自分の描いた絵がカメラを通して動くのは感動的で、やりがいを感じます」と制作そのものを楽しんでいるのがよくわかります。

(左から)飯野花音さんと伊藤希さん。保育士を目指している飯野さんは「幼い頃からプリキュアとかアニメが日常に溢れていました。父が『機動戦士ガンダム』を好きだったことも影響があるかも」。ガンダム好きに悪い人はいませんからね(※個人の感想です)。伊藤さんは『君の名は』をきっかけに本コースを選択。映像を学べる大学に進学したいと語ります ※撮影時のみマスクを外していただいております

(左から)飯野花音さんと伊藤希さん。保育士を目指している飯野さんは「幼い頃からプリキュアとかアニメが日常に溢れていました。父が『機動戦士ガンダム』を好きだったことも影響があるかも」。ガンダム好きに悪い人はいませんからね(※個人の感想です)。伊藤さんは『君の名は』をきっかけに本コースを選択。映像を学べる大学に進学したいと語ります ※撮影時のみマスクを外していただいております

2年上の文化祭委員長の先輩に憧れて、今年同委員長を務めたという飯野さん。「私も先輩のようになりたくて、文化祭で何ができるかを考えた結果、アニメーションを取り入れることにしました」。飯野さんは、みんなの作業がスムーズに行くように気配りをしながら作業をする様子が印象的。一方、中学ではソフトテニス部だったという伊藤さん。「もともと絵を描くことが好きでしたが、映画館で長編アニメーションを観たときに“人を感動させる仕事に就きたい”と思ったのが、この科目を選んだきっかけです」と、将来がとても頼もしい言葉を聞くことができました。

技術を磨き成長を続ける生徒のみなさんに、講師や先生の思いがしっかり伝わっている様子。3年生のアニメーション作品は2021年内の完成を目指し、日々制作に励んでいます。

使命感と豊かな人間性が培われる、ボランティア活動

(左から)総合進学コース3年生の総務部長の三浦崇椰さんと、同じく生徒会総務次長の林 佳汰さん。取材中の掛け合いも、息がピッタリな2人

(左から)総合進学コース3年生の総務部長の三浦崇椰さんと、同じく生徒会総務次長の林 佳汰さん。取材中の掛け合いも、息がピッタリな2人

東海大山形の生徒会総務部は、生徒総会や体育祭の準備・運営のほかマナーアップ運動などを行います。ほかにもボランティア活動を積極的に学校として取り組んでいる中心的な役割を担っています。

「新校舎になってから、校内にゴミ箱を置かないようになりました。消しゴムのカスや掃除で出るホコリは捨てることができますが、各自の出したゴミは持ち帰るのが決まり。最初は慣れませんでしたが“できるだけゴミを出さない”という意識づけは、とてもよい心がけだと思います」と林さん。唯一あるゴミ箱は、校内に設置されている自動販売機のペットボトルやビン・缶の飲み物容器の回収だけ。「エコキャップを集めて年に一度、山形銀行さんに運びます。山銀さんはその売却益を世界の子どもたちへのワクチンの費用として寄贈しています。僕たちもエコキャップ運動を推進しています」と三浦さんが教えてくれました。
2人に案内されたのが校庭脇にある倉庫。野球部応援のメガホンや文化祭の看板が大切に保管されている中、ペットボトルキャップもここに集められるそうです。ゴミを出さない工夫を至るところで実践しています。

1年間で200キロほど集まるというペットボトルキャップ

1年間で200キロほど集まるというペットボトルキャップ

三浦さんと林さんが生徒会総務部に所属したきっかけはボランティア活動でした。東海大山形は東日本大震災の被災地支援ボランティアを続けて10年。コロナ禍では活動できませんでしたが、彼らは1年生のときには宮城県石巻市へ。その時お手伝いしたのは、ホヤの種床をつくる作業だったそうです。

牡蠣の殻に穴をあけて紐でつないでいくという、ホヤの種床づくりの作業をする東海大山形の生徒のみなさん。三浦さん曰く「単純な作業ですが思いのほか重労働でした」(画像提供:東海大山形)

牡蠣の殻に穴をあけて紐でつないでいくという、ホヤの種床づくりの作業をする東海大山形の生徒のみなさん。三浦さん曰く「単純な作業ですが思いのほか重労働でした」(画像提供:東海大山形)

「被災地支援ボランティアは当初、瓦礫の片付けなどが中心だったようです。復興していく中でお手伝いの要望が変化してきています。僕たちは年々どのように支援できるかを考え、学校として活動しています」

三浦さんはその経験から、林さんに総務部の活動を一緒にやろうと声がけ。生徒会執行部は選挙で選ばれますが、総務部は挙手制。ここにも東海大山形らしい、生徒の自主性に任せた仕組みを取り入れています。
林さんから見て三浦さんは司令官のような存在だと分析します。「総務部は生徒会の実行部隊のような役割。彼は理系、僕は文系なのでちょうどいいのかもしれません」。

生徒会執行部メンバー以外でも、クラブ部活動単位で参加するなど、生徒のみなさんは積極的にボランティア活動を行ってくれるそうです。

震災復興支援ボランティアのほか、雪かき、洪水の土砂の撤去作業などテキパキとこなす様子が評判となり、県内からも依頼が多く舞い込んできます(画像提供:東海大山形)

震災復興支援ボランティアのほか、雪かき、洪水の土砂の撤去作業などテキパキとこなす様子が評判となり、県内からも依頼が多く舞い込んできます(画像提供:東海大山形)

笑顔の三浦さんと林さん。学校生活が充実しているのが伝わってくる表情です。青春っていいですね

笑顔の三浦さんと林さん。学校生活が充実しているのが伝わってくる表情です。青春っていいですね

“誰かに喜んでもらえること”が2人の原動力。林さんは心理学を、三浦さんはプログラマーを目指しているそう。生徒会やボランティア活動を通して、困りごとの解決や人との交流で思いやりを学んだという2人は、東海大学へ進学を希望しています。大学では学部は違えど、彼らはきっと誰かの役に立つような活動をするに違いありません。

トクトクと溢れ出す多様性の泉

書道室の前には、文化祭に合わせて取り組んだ書道部の作品が。持続可能な社会を目指すSDGsは、“誰ひとり取り残さない”がテーマ。SDGsは、学校をあげて活動を推進しています

書道室の前には、文化祭に合わせて取り組んだ書道部の作品が。持続可能な社会を目指すSDGsは、“誰ひとり取り残さない”がテーマ。SDGsは、学校をあげて活動を推進しています

『若き日に汝の思想を培え』
『若き日に汝の体躯を養え』
『若き日に汝の智能を磨け』
『若き日に汝の希望を星につなげ』

―これは、東海大学創立者・松前重義氏の建学の精神を表す言葉。生徒である本人たちはあまり意識していないかもしれませんが、自然とその精神を身につけています。目まぐるしく変化する社会において、得意なものを身につけること、課題解決に向かって誰かのために行動することなど、多くの学びができる同校。昔は『文武両道』から外れてしまうと、生徒は自信が持てなかったような気がします。でも今は、多様性が認められる時代。特に、この場所では“自分らしく”が尊重され、夢や目標を各々が好きに描き、希望を持てる―そんな印象を今回の取材で感じました。
今日もここから、生徒たちが自由にチャレンジし続ける“多様性の泉”が湧き出ています。

東海大学山形高等学校

山形県山形市成沢西3-4-5

この記事を書いた人
みどりかいぎさん

Profile 山形会議のキュレーター。元・書店員。青森生まれ、盛岡・仙台育ち、そして山形へ。今までの引っ越し回数は12回を数える。日々糖質との闘い。レモンサワーがあれば大丈夫。
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