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2021.04.02

花とお茶で四季を愛でる美しい時間(とき)を―。七日町の路地裏に佇む古民家空間

花とお茶 鴇色(ときいろ)


花とお茶 鴇色(ときいろ)

山形市七日町のメインストリートから少し離れた路地裏に佇む、重厚な意匠の石蔵が印象的な建物。もともとかまぼこ店を営んでいたという築90年の古民家をリノベーションし2021年2月にオープンしたこの複合施設の一角に、和菓子と煎茶を味わえるカフェ「花とお茶 鴇色(ときいろ)」があります。SNSを中心に早くも評判を呼んでいる同店を訪ね、代表の木村聡美さんにお話を伺ってきました。

時間(とき)をテーマにしたお花と和菓子のカフェ

山形市若葉町にある生花やドライフラワーなどを扱う「Atelier Momo(アトリエ モモ)」の2号店としてオープンした鴇色。その始まりは、木村さんとこの建物との出会いでした。
「いつか生花と組み合わせたカフェをやりたいという思いがあり、ちょうど一年ほど前に解体業者の知人から、“取り壊すには勿体なく、改修して残したい建物がある。そこで飲食店をやってくれる人を探している”と声をかけてもらったことがきっかけでした。はじめてここを見せてもらった時、隠れ家的な立地や建物の雰囲気がすごく気に入って。和の空間に合わせて、和菓子を提供するカフェにしようと決めました」

1号店の「Atelier Momo」が、ミヒャエル・エンデの“時間”をテーマにした物語『モモ』に由来していることから、2号店も同様に“時間”に関連した店名にしたかったという木村さん ※撮影時はマスクを外していただいております

1号店の「Atelier Momo」が、ミヒャエル・エンデの“時間”をテーマにした物語『モモ』に由来していることから、2号店も同様に“時間”に関連した店名にしたかったという木村さん ※撮影時はマスクを外していただいております

建物の入り口からお店へと続く通路も雰囲気たっぷり。しだいに期待感が高まっていきます

建物の入り口からお店へと続く通路も雰囲気たっぷり。しだいに期待感が高まっていきます

日本の伝統色である「鴇色」は鴇が飛ぶ時に見せる風切羽(かざきりばね)のような黄みがかった淡く優しい桃色のこと。「日本ならではの四季の変化や、一日の時間の移ろいをより深く楽しんでもらいたいという思いから“時(とき)を彩る”という意味を込め、鴇色と命名しました」と木村さん。まさしく店内には、まるでここだけ別世界の時間がゆっくりと流れているような、心地よくたおやかな空気感が漂っています。

コロナ感染予防のため席数を限定し、ゆとりをもった配置に。カウンター席もあり、おひとり様でも入りやすい雰囲気

コロナ感染予防のため席数を限定し、ゆとりをもった配置に。カウンター席もあり、おひとり様でも入りやすい雰囲気

「テーブルごとに季節のお花は欠かさないようにしています」と木村さん。カウンターにはこの日“アリウムコワニー”が飾られていました

「テーブルごとに季節のお花は欠かさないようにしています」と木村さん。カウンターにはこの日“アリウムコワニー”が飾られていました

目に美しく、舌に美味しい。季節を楽しめるメニューが揃う

鴇色で味わえるのは、季節の上生菓子や甘味、干菓子など。それらはいずれもアート作品のように美しく、目の前にした瞬間に思わずため息が漏れるほど。器づかいや繊細な盛り付けにも木村さんのこだわりが感じられます。そのお供にぴったりな煎茶は、日本最北限の茶処として知られる宮城県石巻市桃生町(ものうちょう)の茶葉を使ったもの。他にも、山形市の「ろば珈琲」で焙煎されたコーヒーや、南陽市の「平農園」で作られたりんごジュースなども揃います。木村さんご自身が作り手のもとへ直接足を運び、本当に美味しいと感じたものだけを厳選して提供しているそうです。

桃の花をモチーフにしたというきんとん「桃の花」は3月限定で提供。(税込480円)季節の上生菓子を手掛ける和菓子職人さんは、木村さんと “花と和菓子のワークショップ”なども開催してきた旧知の仲で、一緒にメニューの構想を練ったのだそう(画像提供:鴇色)

桃の花をモチーフにしたというきんとん「桃の花」は3月限定で提供。(税込480円)季節の上生菓子を手掛ける和菓子職人さんは、木村さんと “花と和菓子のワークショップ”なども開催してきた旧知の仲で、一緒にメニューの構想を練ったのだそう(画像提供:鴇色)

3月19日より1日数量限定で登場した「あんみつ」。(税込950円)天草100%の寒天・白玉・大納言かのこ・密漬けさくらんぼ・さつまいもの甘露煮・白あんなどの具材に黒蜜がやさしくマッチ。さまざまな食感を楽しみながらいただけます(画像提供:鴇色)

3月19日より1日数量限定で登場した「あんみつ」。(税込950円)天草100%の寒天・白玉・大納言かのこ・密漬けさくらんぼ・さつまいもの甘露煮・白あんなどの具材に黒蜜がやさしくマッチ。さまざまな食感を楽しみながらいただけます(画像提供:鴇色)

さっぱりとした味わいの中に玄米の香ばしさが感じられる「桃生茶 玄米茶」(税込540円)は同じく3月19日よりスタートした新メニュー。生産量もごくわずかで希少なお茶だという桃生茶はまろやかな風味が特徴で、農家さんから直接茶葉を仕入れ提供しているそう。鴇色で使用する急須や湯呑、カップは作家さんの作品や木村さんが古物市で出会ったというもの。器づかいにもこだわりが溢れています(画像提供:鴇色)

さっぱりとした味わいの中に玄米の香ばしさが感じられる「桃生茶 玄米茶」(税込540円)は同じく3月19日よりスタートした新メニュー。生産量もごくわずかで希少なお茶だという桃生茶はまろやかな風味が特徴で、農家さんから直接茶葉を仕入れ提供しているそう。鴇色で使用する急須や湯呑、カップは作家さんの作品や木村さんが古物市で出会ったというもの。器づかいにもこだわりが溢れています(画像提供:鴇色)

木村さんセレクトのアイテムが並ぶコーナーの一角。干菓子(税込340円)や、平農園のりんごジュース(税込950円~)やドライアップル(税込400円)のほか、真室川町の「森の家」の森茶(税込1,030円)の扱いも。季節の花は一輪から購入可能なのも嬉しいポイントです

木村さんセレクトのアイテムが並ぶコーナーの一角。干菓子(税込340円)や、平農園のりんごジュース(税込950円~)やドライアップル(税込400円)のほか、真室川町の「森の家」の森茶(税込1,030円)の扱いも。季節の花は一輪から購入可能なのも嬉しいポイントです

鶴岡市の「beni.」のピクルスは税込810円から。季節の野菜や果物のピクルスのほか、鴇色オリジナルで製作してもらったという「花豆とマリーゴールド」(税込850円)・「パンダ豆」(税込850円)も

鶴岡市の「beni.」のピクルスは税込810円から。季節の野菜や果物のピクルスのほか、鴇色オリジナルで製作してもらったという「花豆とマリーゴールド」(税込850円)・「パンダ豆」(税込850円)も

「もっと花を身近に」という思いから“花育”をスタート

木村さんが「Atelier Momo」立ち上げ当初から10年来にわたって取り組んでいる活動の一つに子どもたちに向けた「花育」があります。これは花という教材を通して、多くの刺激を受けることで感性を育み、同時に生命の尊さを感じ、思いやりの心を養うことを目的としているもの。

「お花はそもそも安いものではないし、生け花やフラワーアレンジメントって敷居が高いイメージがあって一歩踏み出せないという方も多いと思います。でも、もし小さな頃からもっとお花を身近に感じながら成長できたらどうでしょうか。子どもたちにとってお花は“触っちゃダメ!”と叱られるものではなく、いっぱい触って香りや触感、色や形などを感じてほしいものです」

山形市のS-PAL山形で母の日に合わせて行ったイベント。子どもたちがお母さんのために自分でお花を選び、ラッピングしてプレゼントするという内容でとても好評だったそう

山形市のS-PAL山形で母の日に合わせて行ったイベント。子どもたちがお母さんのために自分でお花を選び、ラッピングしてプレゼントするという内容でとても好評だったそう

東根市のまなびあテラスで春休み期間中に開催したワークショップ。好きなお花を選んで、そのお花をラッピングペーパーに描き、包んで持ち帰る企画だったそう。「真剣に花の絵を描くお子さんの姿を見て、成長を実感されているお母さんの姿が印象的でした」と木村さん

東根市のまなびあテラスで春休み期間中に開催したワークショップ。好きなお花を選んで、そのお花をラッピングペーパーに描き、包んで持ち帰る企画だったそう。「真剣に花の絵を描くお子さんの姿を見て、成長を実感されているお母さんの姿が印象的でした」と木村さん

ご自身も12歳から生け花を学びはじめ、いつも花が身近な存在だったという木村さん。「自分の人生のターニングポイントにはいつもお花の存在がありました」と振り返ります。例えば、美大進学を目指し浪人していた2年目の春、道端に咲いていたムスカリの花にパワーをもらった経験は今でも忘れられないそう。その後、木村さんは花留学を決意し、単身ニュージーランドへ。日本では見たことのない花々に大きな衝撃を受けたのだとか。ご自身が大好きな花の魅力を、一人でも多くの人に伝えたい—。鴇色には、そんな木村さんの思いが随所に溢れています。

一輪挿しは山形市の「sato wood studio」のもの(税込2,000円)。異なる樹種やデザインの中から自分好みの一品を見つけて、手軽に“花のある暮らし”を始めてみては

一輪挿しは山形市の「sato wood studio」のもの(税込2,000円)。異なる樹種やデザインの中から自分好みの一品を見つけて、手軽に“花のある暮らし”を始めてみては

「お花を扱うたびに小さな命に癒されるから、忙しい時やつらい時も乗り越えられるんです。お花相手の仕事を選んで正解だったとつくづく思います」と木村さん

「お花を扱うたびに小さな命に癒されるから、忙しい時やつらい時も乗り越えられるんです。お花相手の仕事を選んで正解だったとつくづく思います」と木村さん

季節の生花のほか、ドライフラワーも豊富に揃う1号店「Atelier Momo」の店内。“花・植物をコミュニケーションツールとし、人と人を繋ぐ活動を”のコンセプトのもと、レッスンやワークショップも多く開催しています

季節の生花のほか、ドライフラワーも豊富に揃う1号店「Atelier Momo」の店内。“花・植物をコミュニケーションツールとし、人と人を繋ぐ活動を”のコンセプトのもと、レッスンやワークショップも多く開催しています

日常にひそむ美しさに気がつける、ほっと安らげる場所を

「初夏はお店の入口までが新緑のトンネルのようになって、そこを抜けてくるのも素敵なんですよ。お客様にはここに歩いてくる道すがら七日町を散策しながら “こんな花が咲いたんだ”とか“ここにこういうお店もあったんだ”とか、さまざまな発見を楽しんでもらえたら嬉しいです」と木村さん。店内の北側に面した窓からは、春になれば満開の桜を眺めることができるといいます。また南側の中庭には今後、御殿堰が再整備される計画も。窓から望む四季の風景が、ますます訪れる人の目を楽しませてくれることでしょう。

鴇色の2階は4月からフリースペースとして貸出を行っていく予定とのこと。ワークショップや個展などさまざまに活用できそう。料金などくわしい情報はお店のHPをチェック

鴇色の2階は4月からフリースペースとして貸出を行っていく予定とのこと。ワークショップや個展などさまざまに活用できそう。料金などくわしい情報はお店のHPをチェック

慌ただしい日常をリセットできるような、唯一無二の癒しの空間「鴇色」。家事や仕事の合間のほっと一息や、大切な人と過ごしたい休日に。皆さんもここで四季を愛でながら豊かな時(とき)を過ごしてみてはいかがでしょうか。

花とお茶 鴇色(ときいろ)

山形県山形市七日町2丁目4-8

この記事を書いた人
あかかいぎさん

Profile 山形会議のキュレーター。山形市出身。大学で県外に出るも、就職で山形に戻る。変な文房具とパン、魚卵と臓物が好き。似ていると言われる芸能人は櫻井翔と餅田コシヒカリ。
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