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2021.03.22

上山市の中心で、文房具愛と感謝をさけぶ

おかげさま文房具店

特注の木製棚と、店主のコレクションであるレトロな什器に文房具が所狭しと並ぶ店内。ドアを開けた瞬間、高揚感に包まれます

特注の木製棚と、店主のコレクションであるレトロな什器に文房具が所狭しと並ぶ店内。ドアを開けた瞬間、高揚感に包まれます

2020年12月、上山市立上山小学校前(上山市鶴脛町:つるはぎちょう)にオープンした「おかげさま文房具店」。SNSでも話題の新店なので、気になっているという人やもう訪れたという人も多いはず。山形会議の文房具好きライターたちが、店主の土屋 稚(わか)さんを訪ねました。

5坪の店内にぎゅっと凝縮された、ステーショナリーの小宇宙(コスモ)

物置小屋をリフォームしたという「おかげさま文房具店」。店主のおじいさまが生前、作業場として使用していた思い出の場所なのだそう。息を吹き返した建物に飾られたレトロな看板が目を引きます

物置小屋をリフォームしたという「おかげさま文房具店」。店主のおじいさまが生前、作業場として使用していた思い出の場所なのだそう。息を吹き返した建物に飾られたレトロな看板が目を引きます

「お店のコンセプトは“文房具好きによる、文房具好きのための文房具店”。自分がかわいいと思ったもの、使いやすいものなど、私のおすすめしか置いていません」という店主の稚さん。メーカーからサンプルが送られてきても、簡単には首を縦に振りません。定休日には情報収集や仕入れを兼ね、文房具店や書店回りをすることもあるそうです。

「お店を始める前はコレクションをすることで満足していましたが、今では“私の好きなものを誰かに共感してもらい、使ってほしい”という思いのほうが強くなりました」。

店内には商品と共に、愛に溢れたPOPも並びます(写真右)。80年代当時、「お弁当ゴックン下敷き」「カップ麺消しゴム」と並び、流行した三菱“uni”鉛筆・替芯のおまけ「かみつきばあちゃん消しゴム」(写真左奥)という懐かしいアイテムも購入できます

店内には商品と共に、愛に溢れたPOPも並びます(写真右)。80年代当時、「お弁当ゴックン下敷き」「カップ麺消しゴム」と並び、流行した三菱“uni”鉛筆・替芯のおまけ「かみつきばあちゃん消しゴム」(写真左奥)という懐かしいアイテムも購入できます

KUTSUWA「学校ケシゴム」税込110円。「折れにくく、とても使いやすいです。形もお値段もすべてかわいい」と店主おすすめの商品 ※金額は取材時の価格です(以下同)

KUTSUWA「学校ケシゴム」税込110円。「折れにくく、とても使いやすいです。形もお値段もすべてかわいい」と店主おすすめの商品 ※金額は取材時の価格です(以下同)

紙ナプキンメモ(税込1,320円)はオープン以来売れ筋の商品で、東北以北では初の取り扱い店舗だとか。机に置いたらあっという間に純喫茶のような雰囲気になりそう。箱は組み立て式なのでギフトにも重宝しそうですね

紙ナプキンメモ(税込1,320円)はオープン以来売れ筋の商品で、東北以北では初の取り扱い店舗だとか。机に置いたらあっという間に純喫茶のような雰囲気になりそう。箱は組み立て式なのでギフトにも重宝しそうですね

山形県在住のイラストレーターmizutamaさんとコラボで制作したオリジナルトートバッグ(税込1,650円・全2色)はすぐ完売してしまうほどの人気アイテム。鉛筆削りのハットと鉛筆のステッキを手にする“ジェントルパンダ”のプリントが魅力的。レッスンバッグのように横型で使いやすいのもポイント ※撮影時はマスクを外していただいております

山形県在住のイラストレーターmizutamaさんとコラボで制作したオリジナルトートバッグ(税込1,650円・全2色)はすぐ完売してしまうほどの人気アイテム。鉛筆削りのハットと鉛筆のステッキを手にする“ジェントルパンダ”のプリントが魅力的。レッスンバッグのように横型で使いやすいのもポイント ※撮影時はマスクを外していただいております


すべては“ペンケース沼”からはじまった

手にはヨーヨーを持つ写真と、かまくら遊びをしている写真は、店主が小学生の頃。上山市生まれ上山市育ちの稚さんは、この時すでに文房具の魅力に引き込まれていたといいます

手にはヨーヨーを持つ写真と、かまくら遊びをしている写真は、店主が小学生の頃。上山市生まれ上山市育ちの稚さんは、この時すでに文房具の魅力に引き込まれていたといいます

ネット用語の“沼にハマる”とは、“抜け出せないくらい好きになること”。彼女が文房具の沼に足を踏み入れたのは、小学生の時でした。

「同居の祖母がひとりっ子である私に、よくお小遣いをくれていました。周りの子たちが駄菓子屋へ行くところ、私はコツコツ貯めて文房具やファンシー雑貨を扱うお店に足を運んでいました。とにかく筆箱が大好きで、100個ほど持っていたことも。お小遣いのほとんどを筆箱に使っていたくらい」と稚さんは当時を振り返ります。

私物の“推し”ペンケースを何個もバッグに忍ばせ、お客さまとの会話のきっかけにしているという稚さん。これでもコレクションの一部だといいます。「さすがに“私、大丈夫かな?”って我に返ったことがないわけではない」とのこと

私物の“推し”ペンケースを何個もバッグに忍ばせ、お客さまとの会話のきっかけにしているという稚さん。これでもコレクションの一部だといいます。「さすがに“私、大丈夫かな?”って我に返ったことがないわけではない」とのこと

学校のお友だちから「筆箱また変えたの!?」と言われても稚さんは気にしなかったといいます。みんなと同じであることより、自分が好きなことは変えられないという気持ちと、かわいい文房具を使うことを勉強のモチベーションにしていたんだとか。数年後、その文房具好きのおばあちゃん子は、学生ボランティアをきっかけに福祉の道を選びます。そのことについて、稚さんは次のように話します。

「介護士は、対象者の方がいらっしゃってはじめて活かされている仕事なんですよ。その頃からも『ありがどさま』とか『おかげさま』という言葉をよく使っていました。私だけじゃなく、山形の人はそういう言葉を大切にしていますよね。介護士の時から人と話すことが好きでしたし、自分で何かをしたいともぼんやりは考えていました。文房具店と決めたのは、ここ1年前くらいです」。


昔から行動力があったという稚さん。コロナ禍でのオープンには不安もあったに違いありませんが、それでも彼女は、じっとしていられなかったといいます。とにかく文具が好き、人が好き、山形が好き―。オープン前からSNSで告知をしていたこともあり、内装業者さんや仕入れ問屋さんだけでなく、たくさんの応援があったからこそオープンまで漕ぎつくことができました。開店前日、旦那さまに商品が並んだ店内を見せたところ『こんなにも文房具が好きだったんだ』と感動して涙を流したそう。きっとこの時、彼女の本気が旦那さまにも伝わったはず。今ではご家族の協力も、大きな原動力となっています。

「魔女の宅急便に出てくる、グーチョキパン店で店番をするキキみたいなポーズを」という無茶振りにも応えてくれた稚さん。このサービス精神には脱帽です(オーダーしておいてなんですが)

「魔女の宅急便に出てくる、グーチョキパン店で店番をするキキみたいなポーズを」という無茶振りにも応えてくれた稚さん。このサービス精神には脱帽です(オーダーしておいてなんですが)


文房具におかげさま、お客さまにもおかげさま

レトロ、海外、国内のカテゴリーでディスプレイを展開(写真:左上・右上・左下)。レジ脇には稚さんの旦那さまである、ひこぼしさんによる俳句が飾られています(写真:右下)。俳句は月2回の更新で、レシートにも印字されているので要チェック

レトロ、海外、国内のカテゴリーでディスプレイを展開(写真:左上・右上・左下)。レジ脇には稚さんの旦那さまである、ひこぼしさんによる俳句が飾られています(写真:右下)。俳句は月2回の更新で、レシートにも印字されているので要チェック

稚さんは“山形から、上山から文房具を発信したい”と考えています。今では米沢在住のイラストレーターさんが描いたお店周辺地図を配布したり、上山市と姉妹都市のあるドイツの文具を集めたフェアを開催したり、お店以外にも「山形文房具会」を発足し、事務局を務めるほど。地元の温泉や企業とコラボしていきたいとも語ります。彼女にとって文房具とは書くための道具のみならず、社会への“コミュニケーション・ツール”でもあります。

「お客さまがマスクをしているのに、『匂いまで懐かしい』と言ってくれることもあるんです。なんだかうれしいですよね」。

私たちにとって文房具は(沼にハマるかは別として)誰もが懐かしいものであり、日常にあふれるもの。そんな沼から『おかげさま』『ありがどさま』と語りかけてくる「おかげさま文房具店」。“おか文”の店主は今日も、5坪の小宇宙の片隅で入荷した文房具を検品しながら、ご来店されるお客さまとの出会いを感謝しているに違いありません。



おかげさま文房具店

山形県上山市鶴脛町1-11-4

この記事を書いた人
みどりかいぎさん

Profile 山形会議のキュレーター。元・書店員。青森生まれ、盛岡・仙台育ち、そして山形へ。今までの引っ越し回数は12回を数える。日々糖質との闘い。レモンサワーがあれば大丈夫。
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