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2022.10.28

世界が認めた技術で、脱炭素社会を目指す
−ゼロエネルギーへの挑戦−

日本地下水開発株式会社 専務取締役 桂木聖彦 (まさひこ)さん

かいぎさん
「この建物は“省エネ”と“創エネ”により、ゼロエネルギーを実現した建物です。中で過ごす人たちは快適に過ごせていますよ」と専務取締役の桂木聖彦さん。2021年に完成した山形県初のZEB棟の前にて ※撮影時はマスクを外していただいています

「この建物は“省エネ”と“創エネ”により、ゼロエネルギーを実現した建物です。中で過ごす人たちは快適に過ごせていますよ」と専務取締役の桂木聖彦さん。2021年に完成した山形県初のZEB棟の前にて ※撮影時はマスクを外していただいています

雪が降り積もる中、ハイヒールでも歩けたり、ジョギングができるほど雪がない道路を山形市内を中心に見かけます。この道路には日本地下水開発株式会社(以下JGD)が開発した「無散水消雪システム」が使用されていることをご存知でしょうか。私たちの生活を快適にしてくれる地下水熱を利用したシステムや、再生可能エネルギーについて、また現在進んでいるプロジェクトなどを専務取締役の桂木聖彦さんに伺いました。

資源を開発し、生活を豊かに

JGDは、大阪で井戸掘りの仕事をしていた桂木公平さん(桂木聖彦さんの父)が山形県に来県し、農村開田事業に取り組んだことがきっかけで1962年に創業されました。
「父が山形にきて山間部の農村を見学していた時、そこに住む人から“水さえあれば畑を田んぼに変えられて生活が変わるのに…”と言われたそうです。そこで父は、井戸掘りの代金はお米が獲れてからでいいからと井戸を掘ってあげたところ、畑が水田に変わり数年後には豊かな農村に変わったそうです」と桂木さん。
その後、1963年の「38(サンパチ)豪雪※」をきっかけに広まった新潟県発祥の地下水を使用した「散水消雪システム」の事業をスタート。また、井戸掘りの技術を生かし、山形県の温泉がなかった市町村にも温泉を掘削するなど、「35市町村全てに温泉がある県」の立役者となりました。

※1962年(昭和37年)12月末から1963年(昭和38年)2月初めまで、約1か月にわたり北陸地方を中心に東北地方から九州にかけての広い範囲で起こった雪害。

「創業者である父はアイデアを出すことや研究開発をすることに対してとても積極的で、投資は惜しみませんでした」と桂木さん

「創業者である父はアイデアを出すことや研究開発をすることに対してとても積極的で、投資は惜しみませんでした」と桂木さん

地下水を活用し、循環させながら雪を消すシステムの開発に成功

積雪地帯の強い味方となった散水消雪システムですが、汲み上げた地下水を散水してしまうと地下に戻せないといった面もありました。
「画期的なシステムでしたが、地下水の枯渇化が懸念されました。なにか違う方法がないのだろうかと考え、地下水の熱エネルギーを利用した消雪の研究開発を始めました」と桂木さん。
そこで開発されたのが、揚水井(ようすいせい)注入井(ちゅうにゅうせい)、操作盤と放熱管で構成された地下水還元式の「無散水消雪システム」。日本初となるこのシステムは、1980年に秋田市の歩道で試験を実施し、翌年には山形市において実証に成功しました。
現在は全国の積雪寒冷地域に普及し、JGDでは全国の5割以上を施工しているそうです。また、山形県ではこのシステムが特に普及しているため、全国トップの設置状況となっています。

無散水消雪システムの構造。操作盤で降雪を感知すると、揚水井内の水中モーターポンプが作動し、道路の下の放熱管に地下水を送水します。地下水は15℃前後と温度が一定しているため、融雪することができるそう。送水された地下水は注入井に戻り、水を無駄にすることはありません(提供:日本地下水開発株式会社)

無散水消雪システムの構造。操作盤で降雪を感知すると、揚水井内の水中モーターポンプが作動し、道路の下の放熱管に地下水を送水します。地下水は15℃前後と温度が一定しているため、融雪することができるそう。送水された地下水は注入井に戻り、水を無駄にすることはありません(提供:日本地下水開発株式会社)

山形市内の無散水消雪施設設置エリア
道路_1 道路_2

山形市内の無散水消雪施設設置エリア(青・赤・緑の部分)。マップを見ると道路に雪がなく安全に走行したり、歩ける道路が多いことがわかります。山形市内の設置数は国内トップだそう(提供:日本地下水開発株式会社)

環境に配慮したエネルギー利用の研究開発を

JGDでは無散水消雪システムの研究開発と同時期に、地下水の持つ熱エネルギーを他にも何か生かせないだろうかと考えたそうです。
「1975年頃はちょうどオイルショックの時で、中東から日本に油が入ってこない状態でした。そのため、電気代は高騰し、資源がない日本は非常に厳しい状況になりました。そこで、石油などの代替となる省エネルギーのシステムが必要だと国で研究開発に予算をつけてくれたことをきっかけに、山形大学工学部の先生方と熱エネルギーを利用したシステムの共同研究に着手したのです」と桂木さん。
研究を重ね、1983年に誕生したのが「帯水層蓄熱冷暖房システム」。このシステムは帯水層に蓄えられた熱を利用し、建物の冷房・暖房を効率的に行うといったもので、1983年に国内初としてJGDの本社に導入しました。

帯水層畜熱冷暖房システムの仕組み。帯水層(地下水で満たされた透水性が良い地層)にある地下水を揚水し、冷房または暖房用の熱源として利用します。地下水は使用と同時に別に設けた井戸から帯水層に還元します(環境省HPより)

帯水層畜熱冷暖房システムの仕組み。帯水層(地下水で満たされた透水性が良い地層)にある地下水を揚水し、冷房または暖房用の熱源として利用します。地下水は使用と同時に別に設けた井戸から帯水層に還元します(環境省HPより)

カーボンニュートラルの実現と“MADE IN YAMAGATA”の技術で途上国を救う

2000年代に入ると、環境問題がクローズアップされるようになり、地下水の熱エネルギーを使った冷暖房システムは、地球温暖化対策に資するのではないかと、国内外から注目されるようになります。

「JGDでは、2019年度からNEDO「再生可能エネルギー熱利用にかかるコスト低減技術開発事業」の採択を受け、積雪寒冷地域におけるZEB※の促進を目指した、JESC※-ZEBプロジェクトをスタートさせました」
2021年2月に、実証施設として山形市内にZEB棟を完成させ、4月から2022年3月までの消費電力を検証したところ、収支ゼロを達成。積雪寒冷地域でも『ZEB』が達成できることを証明しています。

※ZEB(ゼブ)とは=Net Zero Energy Building(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)の略称。年間の一次エネルギー消費量の収支をゼロとすることを目指した建物のこと。

※JESC=日本環境科学株式会社

関連会社の日本環境科学株式会社に建てられたJESC-ZEB棟。建物には太陽光パネルのほか、断熱効果を高めるため、壁を厚くしたり、西日を遮断する外付けブラインドなど、随所に工夫がされています(写真提供:日本地下水開発株式会社)

関連会社の日本環境科学株式会社に建てられたJESC-ZEB棟。建物には太陽光パネルのほか、断熱効果を高めるため、壁を厚くしたり、西日を遮断する外付けブラインドなど、随所に工夫がされています(写真提供:日本地下水開発株式会社)

2020年に政府が宣言した「2050カーボンニュートラル宣言」の実現に向けて、具体的な行動を起こしている桂木さん。JGDの技術力は環境問題はもちろん、国際協力にも貢献しています。現在は中央アジアのタジキスタン共和国で、地下水熱を活用した冷暖房システムプロジェクトに参加。

「タジキスタンは石油や天然ガスなどのエネルギー資源には乏しい国。一方で地下水が豊富なため、我が社が開発したシステムが生かされると思います。我が社ではプロジェクトチームをつくり、培ってきた技術と経験を生かし、事業を成功させたいと思っています」

地下水の豊富な山形で培われたMADE IN YAMAGATAの技術で、持続可能な社会を実現するため奔走する桂木さんの姿に、再生可能な熱エネルギーの登場が、2050年の脱酸素社会を可能にしていくのでは、と大きな期待を抱きました。

プロジェクトメンバーによる現地での地下水調査の様子。5年かけたプロジェクトの中では現地の事業者に技術育成を行い、持続可能なシステムを構築していきたいと考えているそう(写真提供:日本地下水開発株式会社)

プロジェクトメンバーによる現地での地下水調査の様子。5年かけたプロジェクトの中では現地の事業者に技術育成を行い、持続可能なシステムを構築していきたいと考えているそう(写真提供:日本地下水開発株式会社)



プロフィール
日本地下水開発株式会社 専務取締役 桂木聖彦さん

山形市出身。1983年山形県立山形東高等学校卒業後、1984年明治大学経営学部経営学科入学。1986年米国・南イリノイ大学に留学後、1988年明治大学経営学部経営学科卒業。
清水建設株式会社勤務を経て、1990年日本地下水開発株式会社入社。2019年秋田大学大学院国際資源学研究科博士後期課程を修了し、博士(工学)を取得。

日本地下水開発株式会社

山形県山形市松原777

https://www.jgd.jp/
日本地下水開発株式会社

桂木さんのもう一つの顔

小学生の時からずっとサッカーを続けていたという桂木さん。学生時代は日本サッカー協会でアルバイトをし、国際試合のレフェリーの通訳を務めるなどしたそうです。山形に帰ってきてからはモンテディオ山形の立ち上げにも尽力し、山形のサッカーを盛り上げてくれています。
現在はJリーグマッチコミッショナー、山形県サッカー協会会長、株式会社モンテディオ山形の取締役を務める傍ら、女子チームの総監督をしたりと、サッカーから離れられそうにありません。
サッカーの魅力を訊ねたところ「足を使うので不確実性が多いわけですが、その分ボールを持った人が自分の判断で試合を組み立てることができ、やりようによっては相手との力の差を埋めることができます。その動作や考え方は仕事につながるものがあるんじゃないかなと思っています」とサッカー少年のような笑顔を見せてくれました。

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大型遊戯場_4

この記事を書いた人
たいこかいぎさん

たいこかいぎさん
Profile 山形会議キュレーター。上山市出身。お酒を愛するアマチュア打楽器奏者。広い人脈により、さまざまな調査能力に長けており、情報が早い。敬意を込め周囲は「記者」と呼ぶ。
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