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2021.08.20

シリーズ 山形の『はたらく』におじゃまします!

NPO法人かみのやまランドバンク 鏡 昌博さん

かいぎさん
鏡さんは上山市ご出身・在住で、かみのやまランドバンクの副理事長を務め、実質的な現場リーダーを担っていらっしゃいます

鏡さんは上山市ご出身・在住で、かみのやまランドバンクの副理事長を務め、実質的な現場リーダーを担っていらっしゃいます

学生にとって『はたらく』ことは、憧れもあるけれどまだ先のことで実感がわきづらい気もします。山形学生会議では『はたらく』を実践している人や会社に密着して、『はたらく』っておもしろい!やってみたい!と思えるようなお話をお聞きします。
今回はNPO法人かみのやまランドバンクの鏡昌博(かがみ・まさひろ)さんの『はたらく』におじゃまします!

空き家・空き地問題のためのNPO

Q 空き家問題って具体的にどんなことですか?空き家が増えるとどうなるのでしょうか?

A 上山市では2020年3月現在、空き家の数が485戸あります。空き家とは、「1年以上人の出入りがなく、不動産会社が管理していないまま放置されている」建物のこと。単身高齢者世帯も増えており、空き家予備軍は今後も増加が予想されています。
上山市の中心部は平坦地が少なく起伏があり、上山城の城下町であった名残の敷地や道が狭い土地が多いため、車での通行など現在のニーズに適応できず、空き家になってしまいやすいそうです。一度空き家になってしまうとどんどん老朽化して、更に借り手がいなくなりそのまま放置されるしまうことも多いです。

武家屋敷前の空き家

武家屋敷前の空き家

農村地域の空き家

農村地域の空き家

空き家になると、雑草が生えてきて景観がどんどん悪くなってきます。空き家の隣人から「漏電していないか心配」などの不安の声やクレームが実際にあります。
ヘビや野良猫など有害生物が空き家に住み着き、家の中のものが傷みやすくなり、雪や台風被害などで建物が劣化して、とても危険な状態になってしまうことも。このような空き家が増え続けていることによって上山市の治安の悪化が指摘されています。
この問題を今のまま放っておいてしまったら、10年後20年後に、上山城周辺のスラム化が進むなど、今は廃屋になっている大きい旅館が劣化により倒壊してしまう危険があるといいます。
そこで、私たち民間と行政が発起人となり2019年6月「NPO法人かみのやまランドバンク」を設立。空き家や空き地などを再編し、良好な宅地を生み出し、治安と利便性をよくしていこうと取り組んでいます。

NPO法人かみのやまランドバンクは、かみのやま温泉駅から徒歩5分ほどの建物内に事務所を構える

NPO法人かみのやまランドバンクは、かみのやま温泉駅から徒歩5分ほどの建物内に事務所を構える

行政の手が届かないところに手を伸ばす

Q かみのやまランドバンクはどのように「はたらく」を実践しているんですか?そもそも設立したきっかけはなんでしたか?

A 私たちNPO法人かみのやまランドバンクは、主な事業として、空き家バンク事業(空き家・空き店舗の利活用)、ランドバンク事業(空き地の利活用)、住み替えバンク事業(利用する物件マッチング)の3つの“バンク事業”を行っています。
上山市と連携し、相談者が補助金をスムーズに受けられるようにし、リノベーションしやすい環境づくりも行っています。この他にもクラウドファンディングを行ったり、道路拡張を行政に提案したりと、住みやすい環境にする事業に取り組んでいます。私は20〜30年ほど役所で建築士として働いてきて、もともと学校や体育館などの公共施設を作っていましたが、依頼される仕事がどんどん変化していくのを感じていました。その中で市の住民から空き家についての相談をもらっても、役所の建築士という立場では手厚くサポートして行動することができませんでした。そこで行政では対応しきれない細やかな部分を代わりに行えるようにNPO法人を設立しました。

無償だけどお金に代えられない喜びがある

Q 学生である私はNPO法人と聞くと、ボランティアで成り立っていて、学生のうちは経験になったり、仕事をリタイヤしてからはやりがいをもって取り組めたりするけれど、『はたらく』にするのは難しいというイメージもあります。

A 私自身はかみのやまランドバンク以外にも市の職員、また大学の非常勤講師という仕事も持っています。かみのやまランドバンクでの私の報酬は無償ですが、空き家対策をしていく中で、まちの人とのつながりができて、楽しく対話しながら進めていった事業や、自分の関わった物件から人とのつながりが日常に組み込まれていくことにやりがいを感じて楽しいです。人は一人じゃ生きていけず、コミュニティがあって対話があるからこそ生きられるのだと思います。“人を活かすまちづくり”はお金に代えられない喜びがあります。

山形大学や東北芸術工科大学の学生や社会人ボランティアも大きな力となっている

山形大学や東北芸術工科大学の学生や社会人ボランティアも大きな力となっている

鏡さんにとって『はたらく』とはときめくこと

Q 鏡さんにとって、NPO法人かみのやまランドバンクで「はたらく」ってどのようなことなのでしょう?

A 新たな出会い、新たなコミュニティ、上山の魅力づくりが私の仕事です。これを話すと取材に来る人から“ワクワクしますね”って言われます。ランドバンクがあるからこそ、一市役所員と大学生や、事業者の方ともつながっていくことにワクワクを感じます。
まずは前向きな行動を起こし、社会実験を通じた“トライ&エラー”からその時に合ったより良い手法を模索し、実践することで柔軟なまちづくりを行っていこうと思います。地域住民と一緒に行動し、苦労し、楽しみ、“ワクワクするね”と思ってもらえるまちにする。自分自身もワクワクしながら取り組んでいます。

目をキラキラと輝かせながら取材に応じる鏡さん

目をキラキラと輝かせながら取材に応じる鏡さん

【学生会議】ワクワクがまちの未来をつくる

上山の空き家問題解消と活性化・発展の中心的役割を担いつつあるNPO法人かみのやまランドバンク。コミュニティづくりの事例の一つに、そばとカフェのお店「harappa」があります。
そば屋開業の夢を持つ店主さんと、かみのやま温泉駅前の元お土産屋さんをマッチングして、役所とのつなぎ役もかみのやまランドバンクが担って実現しました。
また、店舗のリフォームには山大生、芸工大生、社会人ボランティアの方たちが参加し、かみのやまランドバンクの理事メンバーである不動産業、建築士、デザイナー、大学教授などが、ノウハウを教えながら、店主も加わり手作りで行いました。コストダウンとともに、この作業を通じて人々のつながりを創出したのです。こうしてharappaは賑わい始め、かみのやまの未来をつくる場所の一つになりつつあります。

『はたらく』を考える上で「NPO法人」というのは「非営利」と名のつくだけにお金にならないイメージがあり、お人好しみたいな人達たちがやっていて、骨折り損をするんじゃないかと思っていました。
ですが鏡さんのお話を伺って、お金に変えられない「つながり」によって、上山のワクワクな未来がつくられて、鏡さんご自身もワクワクしながら取り組んでらっしゃることがわかりました。
学生視点では、NPO法人が就職先の選択肢となるためには、夢ばかりではなく収入や福利厚生の面も気になるところです。
今回鏡さんにお話を伺い、自分の住んでいるまちの再生や未来をつくる大切な役割があるとわかりました。NPO法人での『はたらく』が全て無報酬ではないと思いますが、鏡さんのように本業に相乗効果のあるNPOとの両立や、NPOと副業をバランスよくこなすような働き方の多様性を感じました。
今後もさまざまなカタチの『はたらく』におじゃまし、山形での仕事の面白さやワクワクをどんどん発信していきたいと思います。

NPO法人かみのやまランドバンク

山形県上山市二日町6-1

この記事を書いた人
斎藤天音

斎藤天音
Profile 山形学生会議編集長。山形県白鷹町出身。東北芸術工科大学 芸術学部美術科総合美術コースに在籍しながら個人事業「天音印」を開業。ディレクター、アーティスト、クリエーターとして精力的に活動中。
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