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2022.08.09

三浦と山形は似たところも「あるべ」、違いも「あんべ」

三浦半島の最南端で朝めしを

かいぎさん

2021年6月の「セブンルール」を見ていて、神奈川県の地元の人はもちろん観光客も魅了する「朝めし あるべ」の店主・菊地未来(きくち・みく)さんが取り上げられていました。いつか行ってみたいと思っていたところ、お隣の横須賀市に偶然用事ができたので、先日三浦市の三崎まで足を延ばしてみました。

「あるべ」で食べられるひもの定食

「あるべ」で食べられるひもの定食



「あるべ」までの道のり

「あるべ」は三浦半島(神奈川県)の最南端、マグロが有名な三浦市の三崎港にあります。東京湾と相模湾が見えて潮の香りがする場所です。東京の品川駅から、くるりの名曲『赤い電車』でも描かれている京浜急行に乗って約1時間半で三崎口駅に到着。そこから三崎港まで更にバスで15分揺られて、ちょっと歩くと、手書きの文字で「朝めし あるべ」の看板が見えてきます。古い民家をリノベーションしている、かなり年季の入った店構えです。

みんな大好き!人気のオルタナティブ・ロックバンド、くるりの『赤い電車』のモデルになった京浜急行。初めて見る三浦半島の朝の景色を眺めながら移動します

みんな大好き!人気のオルタナティブ・ロックバンド、くるりの『赤い電車』のモデルになった京浜急行。初めて見る三浦半島の朝の景色を眺めながら移動します

潮の香りのする三崎を歩いて、山形から実に5時間以上かけて念願の「朝めし あるべ」と書かれたお店、発見!

潮の香りのする三崎を歩いて、山形から実に5時間以上かけて念願の「朝めし あるべ」と書かれたお店、発見!

着席すると目に入るメニュー表。地元の人に一番人気だというベーコンエッグ定食からあじのひもの定食など、三浦で仕入れた魚や野菜や卵などを使った「これぞ朝めし!」といった定食が約10種類並びます。
楽しみすぎて1日前の夜から食べるのを控えていた、あまねかいぎ。どれもおいしそうで優柔不断な私は10分近く悩みました。「まぐろのホホのひもの定食」と、どうしても食べたくてオプションで単品の「ベーコンエッグ」を、「食べきれるかしら?」「ペロリといけるだろう」という天使と悪魔の葛藤を経て、勢いでどちらも注文しました。

ついに念願の朝めしを実食!

初めて食べる「まぐろのホホのひもの定食」。メニューによると、“地元の干物屋さんから仕入れた希少なマグロのホホ肉のみりん干し”とのこと。脂が乗ってテリッとした見た目とみりんのほんのり甘い香りでいい匂い…。写真撮影の時点でよだれが止まりません。
マグロはほとんどがお刺身やお寿司で火を通してないものしか食べたことがなかったですが、噛むたび甘い脂が口の中で溶けて、骨もなくパクパク食べられて、お魚と思えないくらいジューシーで食べごたえがありました。ご飯との相性もバッチリ。

定番のベーコンエッグは、三浦の山本養鶏場から仕入れた卵と店主のおすすめのベーコンを使っているとのこと。
お家でも作れるレシピで馴染みのある味のはずなのに、おいしくて唸っちゃうほど。目玉焼きのプルプル食感と、厚めのベーコンに黄身が絡んで、ご飯にとっても合います。

まぐろのホホ肉をほおばるあまねかいぎ。お米を詰め込みすぎて口がぱんぱん

まぐろのホホ肉をほおばるあまねかいぎ。お米を詰め込みすぎて口がぱんぱん

付け合わせにはパプリカとズッキーニの炒めもの、ポテトサラダ、切り干し大根、きゅうりのお漬物、そしてお味噌汁がセットでした。
副菜は口の中がさっぱりする味つけで、干物のジューシーな脂のあとに食べたらもう本当においしいです。パプリカは苦味もなくシャキシャキ食べられて苦手な人でも食べられそう。箸がどんどん進みます。干物と副菜の交互で永遠に食べていられそうです。笑

お味噌汁はウリのような何かが入っている優しい味。「なんだろう?これ」と思い聞いたところ、なんとメロンでした!栽培の際に1つのメロンに栄養を集中させるために間引いた「摘果メロン」。近所の農家さんから頂いたものを、具にしているそうです。捨てられてしまうかもしれないものでおいしいお味噌汁。SDGs!

三浦の人に人気だというベーコンエッグと付け合せの野菜たち。毎日違う野菜を使っているそうで、通って食べたくなっちゃいます

三浦の人に人気だというベーコンエッグと付け合せの野菜たち。毎日違う野菜を使っているそうで、通って食べたくなっちゃいます

初めて来たのにくつろげるお店

古民家を改装して作られた木の温かみのある店内"

古民家を改装して作られた木の温かみのある店内

お店の中は木の温かみを感じる雰囲気で、10名程のテーブル席と3名程のカウンター席があって、レトロな雰囲気。朝からゆったりくつろげそうな空間です。
壁の一面にはずらーっと本や写真などがたくさん飾られています。三浦の風景画のポストカード、今じゃなかなか見ない振り子の掛け時計、石油ストーブ、オシャレで年季の入ったやかん、本棚には三浦の歴史が分かる本、朝めし後の観光を楽しめそうな湘南ハイクの本、移住や空き家の改装に役立ちそうな賢い中古家具の購入をするコツの本、田舎暮らしの本など。干物のイラストが描かれた「あるべ」オリジナルのバッグも売っていました。
店内ではラジオが流れていて、ローカルな話がすーっと耳に入ってきます。インタビューをされている人々の口調からも地元への愛が感じられます。お店にいるだけで三浦に包まれるような感覚になって、心がぽかぽかします。

初代店主・菊地未来さんに、お話を伺いました!

「三浦で生まれ育って三浦のことが大好きで、高校時代に地元で何がしたいかを考えたとき、大学は建築を学ぼうと進学しました。“建築”とひと言で言っても、幅広く学ぶ分野があります。私は新築を建てることや新しくつくる物はあまり好きじゃなく、フィールドに興味がありました。それが今で言う“まちづくり”の分野になると思います。
三浦は全国の地方の課題にもなっているような空き家が多いことと人口減少が課題でした。
大学で地域の課題を学んで、卒業後は“地元の三浦をどうにかしたい”と思い、鎌倉のゲストハウスで2年間働いてノウハウを学びました。

三浦で朝めし屋をやろうと思ったのは、三浦はマグロが食べられるところがあるけど干物や三浦の野菜を食べられるところがない、お昼や夜に営業している飲食店はあるけど、朝めしを食べられるところがない。“朝しか営業しない三浦の地元野菜や干物が食べられる”場所があれば、観光客にもっと三浦に滞在してもらえるのではないかと考えました。更に、朝めしを食べたお客さんへいま召し上がった干物や野菜が買えるお店を紹介してお土産として買ってもらうことによって、一つのお店で完結せず、いろんなお店での消費を促す仕組みを作っています。」

ぽわっとした笑顔が素敵な未来さん。生まれも育ちも三浦で、話をどんどん聞くたびに三浦愛が伝わってきます

ぽわっとした笑顔が素敵な未来さん。生まれも育ちも三浦で、話をどんどん聞くたびに三浦愛が伝わってきます

未来さんの目指す三浦の姿

「観光客や短期滞在の人が増えてきたので、今度の課題は三浦を好きになってくれる人が定住してくれるようにすることだと考えました。
そこで、この店を二代目店主で同姓同名の菊地未来(ニックネーム:みくに)さんに引き継ぎ、MISAKI STAYLEという会社を立ち上げて“三浦でお店をやってみたい!”という方や“三浦に住んでみたい!”という方にトライアルベースとして利用してもらい、安くお店の営業体験や三浦にお試し移住ができるようにしています。移住したい人と不動産屋さんのつなぎ役になり、空き家のマッチングも行っています。空き家を改装して移住者に使ってもらうことで、三浦でお店を始めることや住んでみるというハードルを下げる環境づくりをしています。

空き家問題と人口減少はただ単純に「移住促進をして人を呼べばいい」というものじゃないと考えていて、全国的に人口減少が進んでいる中で人口の分母は減っていくのに、人口の分子を各地が増やそうと数の取り合いになるのは不毛だと思います。
私は「三浦に移住して下さい!」とは言ったことはありません。私が移住相談を受けるのは「地域へ愛着を持ってくれる人」を増やしていければと考えているからです。それは移住してくる人もそうだし、住んでいる人もです。

三浦は「暮らす人たち自身が楽しんでいる」と思います。私自身もそうだし、移住してきた人たち、それぞれの人が自分らしく自由に暮らし、その楽しさが周囲へ波及する。楽しそうな人が多くなると、三浦に魅力を感じた人が自然と集まってくるんです。何も用事がなくてもお茶しに来てのんびり話をしたり、取れた野菜を持ってきてくれたり、自然と人のつながりができてくるのが本当に楽しいです。今後も三浦に移住したいという人が増えるよう、自分たちが楽しみながらサポートしていきます。

【学生会議】山形に「あんべ」があるミライ

未来さんは、東北育ちの私からするとサバサバしていて最初は怖い姉御さんキャラなのかな…と思いましたが(すみません!汗)、突然のお願いにも関わらず対応してくださり、たくさん話してくださって嬉しかったです。
最後の方は私がインタビューをしているというより、私の相談に乗ってもらっているような感じになっていました。
以前にこの山形学生会議の記事で書いた上山市の空き家対策にも参考になることがたくさんありました。

山形にもおいしい食べ物がたくさんあります。全国的に有名な米沢牛やさくらんぼはもちろんおいしいですが、高価だったり時期が限られていてなかなか食べられなかったりします。さすがご贈答用。私はここ最近、東京から来た方々にお店を紹介したい機会が多くあったのですが、意外と「山形ならでは」のものを学生でも気軽に食べてもらえる場所があまりないのかなと感じました。
山形にも、あまり目立っていない山形の食材を使ってお手頃な朝めしや山形の家庭で食べられるような料理を食べられる場所をつくったら、出張のビジネスマンや観光客にも喜んでもらえるのではないでしょうか。栄養士を目指す学生や、料理人の卵のような人にトライアルで貸し出せるようにしたら、若者も集まりやすいホットスポットになるんじゃないかなと思います。

実は「あるべ」は三浦の方言で「あるでしょ」という意味なのです。これって山形も同じですよね。山形だと「あんべ」とか「あっぺ」とも言います。
「三浦にはあるべがあるべ、山形にはあんべがあんべ」となって、どちらの街でも楽しいまちづくりが発展していったら素敵です。

この記事を書いた人
斎藤天音

斎藤天音
Profile 山形学生会議編集長。山形県白鷹町出身。東北芸術工科大学 芸術学部美術科総合美術コースに在籍しながら個人事業「天音印」を開業。ディレクター、アーティスト、クリエーターとして精力的に活動中。
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