creative
2020.02.26言葉だけでなくアクションを!―学生がリードするローカルSDGs
山形の隠れフルーツ すこだまサンドジェラート 「やまごとサンド」
東北芸術工科大学 デザイン工学部 企画構想学科 3年 8名による山縣ゼミ生のみなさん ※撮影時のみマスクを外していただいております
SDGs(持続可能な開発目標)は山形県でも宣言が出され、私たちの身の回りでも目標達成に向けた取り組みが盛んになっています。いち早くそのSDGsの実践をテーマに活動してきた東北芸術工科大学 デザイン工学部 企画構想学科の山縣弘忠(やまがた ひろただ)准教授のゼミ生8名が、2021年1月に「山形の隠れフルーツ すこだまジェラート やまごとサンド」を発売。このジェラートを通して社会に伝えたかったこと、感じたこと―。山形会議ではジェラート開発に携わった学生たちを取材しました。
学生たちが開発した「やまごとサンド」 (画像提供:山縣ゼミ)
ポジティブやユーモアで、社会課題を考える間口を広げたい
東北芸術工科大学デザイン工学部企画構想学科3年生の山縣ゼミのテーマは、“SDGsで社会課題の解決を目指すこと”。その社会課題に対して農業生産者、中小企業、大企業、行政、メディアなど地域のさまざまなパートナーと連携し、主体性をもって自分たちのアイデアで成果を出していくのが、企画構想学科のゼミの特徴です。
「“SDGs”や“社会課題”と聞くと、多くの人にとっては難しい印象になってしまいがちです。よりたくさんの方にSDGsへ親しみが持てるように“食”をテーマにして、その中でも子どもから大人まで食べられるスイーツをセレクト。そして保存期間の長さからもリーチの長いジェラートを選びました」と語るのは、プロジェクトのリーダーである佐藤彩花さんです。
「やまごとサンド」開発のプロジェクトのリーダーを務めた佐藤彩花さん
2020年7月、SDGsジェラートの開発にあたってメンバーはまず「つくり手」「売り手」「買い手」を対象としたヒアリングの実施からスタートし、それぞれの課題を見極めることに。東北農政局をはじめ、やまがた農業女子ネットワークさん、リコージャパン株式会社山形支社さん、宮城県名取市にあるジェラートショップNatu-Lino(ナチュリノ)さんに、そして地域の一般生活者の方々にアンケートをし、商品開発のヒントを模索しました。
地域の産業基盤である農業を活性化したい/せっかくつくった農作物の食品ロス(廃棄)を少なくしたい/SDGsを推進するきっかけとなる活きる企画にしてほしい/新しい生産者との新規顧客を獲得したい―つくり手、売り手からはこのような思いがヒアリングできたといいます。では消費者のアンケートはどんなものだったのでしょうか。
「大学SDGs ACTION! AWARDS」にも出品した同ゼミ。アワードのエントリーに関してのリーダーは西 彩香さん
「アンケートでは私たちが思っているよりみなさんは健康志向の方が多く、栄養が摂れるものがいい、安心・安全なイメージのある地元食材がうれしいという反応が多くありました。地産地消は脱炭素社会の貢献にもつながります」と話すのは西さん。地域の新たな魅力を発掘しヒアリングの結果を活かしながら、それぞれの思いを満たす商品の開発に乗り出しました。
商品化という、ローカルSDGs実践のアクション
「やまごとサンド」の店舗用POPのデザインもこのプロジェクトの学生たちによるもの。ユーモアがあるかわいらしさもポイント
SDGsジェラート「やまごとサンド」のコンセプトは「山形の隠れフルーツ すこだまサンドジェラート」に決定。温泉熱を利用し、無農薬で栽培されている戸沢村の雪ばなな、100年以上前から伝承される庄内町の庄内柿、昼夜の寒暖差や高原の伏流水を活用してつくられる月山のブルーベリー。Natu-Linoさんとも相談し、学生たちはこの3つのフレーバーをセレクトします。「さくらんぼやラ・フランスだけでなく、“あまり知られていないけど山形のおいしいもの”を発掘・発信したかったんです。それからNatu-Linoさんの購買層をひも解いて、忙しい子育て中のママやサラリーマンの方でも自分へのごほうびとして、スプーンを使わなくても手軽に食べられるサンドジェラートの形に。雪ばななのジェラートには皮まで練り込んであるんです。魅力あふれるフルーツが余すところなく“すこだま”(山形の方言で“たくさん”の意味)入ったサンドジェラート。“サンド”には、“凝縮された”という意味も込められています」。そう話してくれたのはパッケージのイラストも担当する早坂瑞季さんです。
パッケージのキャラクターのイラストを担当した早坂さん。「売り手であるNatu-Linoさんは生産者の思いを大切にしているお店なので“クマも食べたくなるほどおいしいブルーベリー”など、それぞれにストーリーを持たせました」
宮城県名取市にお店をかまえるNatu-Linoは、地元生産者による野菜やフルーツ、牛乳などの素材を使用しており、食に敏感なファミリーやカップルで連日大盛況。同店はかつて芸工大のオープンキャンパスのイベント内で移動販売を行ったこともあり、もともとご縁があったそう
「商品名やキャッチコピー、パッケージのデザインや店舗用のPOP(販促ツール)も私たちで制作しました。商品の背景やストーリーなどパッケージやシールなど載せたい情報はたくさんあるのですが、文字が読みやすいように、商品の特徴がわかりやすいように心がけました。“SDGsの敷居を下げたい”という意味でも、多くの方から親しみを持っていただけるようなデザインにしたかったんです」というのはPOPの制作を手掛けた木村琴美さん。企画はもちろんデザインまで、同じ世界観でつくりあげられるのが芸工大企画構想学科。芸工大生の強みを活用した商品開発となりました。
POPのデザインは主に木村さんが制作。「やまごとサンドは商品だけでなく流通段階までこだわり、伝えたい情報をやわらかく可視化するデザインになっています」
店舗のECサイトやフライヤーのテキストを担当した澤野未帆さん。2019年の山形環境展のスタッフとしてボランティアに参加したことや、ファッション誌でサステナビリティという言葉を見聞きして、SDGsを意識しはじめたといいます
こうして2021年1月にSDGsジェラートは完成し、Natu-Linoさんの店頭とネットショップで限定販売を開始します。プレスリリースやオンライン完成記者会見などパートナーシップのもとに8名が実行したPRも功を奏し、1週間足らずで完売するほど好評を博しました。
山形のおいしさをまるごといただける「やまごとサンド」。ひと口いただいた瞬間にフルーツとクッキーそれぞれの甘みと食感が口の中でやさしくとろけ、至福のひとときに ※2021年2月末現在は完売しています(Natu-Linoさんの通販サイトはこちら)
アクションの先に、見つけたもの
商品を開発して、自分たちにも変化があったと語るのは尾形 舜さん。「ひとつの商品をつくるために、たくさんの人が関わっていることを学びました。農業生産者の願い、商品を形にしてくださったお店の信念、アンケートに答えてくださった消費者の声。振り返ってみると、どの立場の人が欠けていても「やまごとサンド」は完成しなかったと思います。私たちは商品の開発だけで終わらない―持続可能にするために、私たちも販路から販促物の制作まで踏み込んで活動したので、この商品をより多くの人が手に取ってほしいと思いました」。
そして思わぬ副産物も。
「つくり手の思いを知ったことで、“食べず嫌い”を克服しました。残さず食べようと思って挑戦したら、想像以上においしかった。いつもの食卓は、実はおいしいものにあふれていたことに気づいたんです。SDGsは壮大で、“~しなければいけない”という責任感のように思っていたのですが、僕が食べず嫌いを克服したのも“残さず食べなさい”だったらプレッシャーだったはず。“食”は本来幸せで楽しいこと。SDGsもそんなふうに自然に促すことができたら、みんなも実行できるんじゃないかと感じました」。
尾形さんはフライヤーを中心とした販促物のデザイン制作を担当。ごみの分別、さらにはごみを減らすために自炊の機会が増えたといいます。「SDGsは社会貢献だと思ってはじめたのに、実は自分が健康的に生活するきっかけになりました」
山縣先生の講義で、最初に聞いた言葉「未来、ヤバイ」にショックを受けたというのは坂本茉利奈さん。その言葉を山縣先生が口にするまで、地球温暖化のニュースが流れていてもどこか他人事だと思っていたそう。
「今回ジェラートを開発することにあたって、まずは自分の周りの人にSDGsの話をするように。そうやって身近な誰かの意識を変えることができたら、少しずつ世の中を変えられるんじゃないかという自信につながりました」
環境問題などSDGsをジブンゴト化へいち早く順応したのは、福島県南相馬市出身の坂本さん。ゼミ内ではプロジェクト活動の記録係(兼ムードメーカー)を担当
自己成長と社会課題の解決
このジェラートで買い手は健康志向、地産地消、地域の新しい魅力の発見、親子間のコミュニケーションの創出や食育。つくり手にとっては、自分たちの農作物の認知拡大から働き甲斐、住み続けられる街づくりへ。そして売り手は新規取引先や新規顧客獲得による働き甲斐や持続可能な商いを。SDGsはこのように社会課題を1つ解決するだけではなく、ほかの目標達成に近づいたり影響を受け合うということを、同プロジェクトから学ぶことができました。
プロジェクトを通して成長を遂げた芸工大3年生山縣ゼミの8名。学生たちはこれからどのような社会人を目指すのでしょうか。
佐藤未来(みく)さんは「SDGsはまだ硬いイメージがあるので、音楽とかスポーツとかみんなが楽しいと思えるようなソフトなもので解決へつなげられたらと思います。それができる人になりたいです」と話してくれました。
佐藤未来さんは企画やフライヤーのテキストなどを担当。「誰か一人が一瞬だけ頑張るのではなく、世の中が“継続して頑張っていける社会”であってほしい」といいます
同じように「将来自分の利益だけを追い求めるのだけではなくて他者、そして社会全体にもいい影響を与えることができる社会人になりたい」というのは西さん。「SDGsを客観視していた私が、プロジェクトを通して積極的になれたと思います。ジブンゴト化は誰にでもできると、少しでも社会に働きかけられたら」というのは澤野さん。コロナ禍のリモートでの活動を中心に、学生たちの限られたリソースの中多くを学び、結果を出した8名。山縣先生も「彼ら、彼女らは活動を通して“社会が実際に企画によって動き出す”という実感を持つことができたんです。それは今後の就職活動でも胸を張って言ってほしい」と太鼓判を押します。
山縣先生とゼミ生、そしてローカルSDGsを牽引するリコージャパン株式会社山形支社の佐藤さん、野口さん、佐々木さんらによるリモート会議の様子。それぞれの手元にはSDGsのアイコンでもあるカラーホイールのバッジがキラリと光っています(画像提供:山縣ゼミ)
国連の言う“行動の10年”はすでにはじまっていて、社会が激変している昨今。今はもう“SDGsのことを知ろう”というフェーズは過ぎました。学生たちは資金も人脈もない中、パートナーシップのもとアクションを起こし続けています。社会をポジティブとユーモア、そしてクリエイティブで面白くしてくれる学生たちにこれからも注目したいですね。それと同時に社会人である私たちも、未来のためにSDGsのアクションを起こす時は“今”だと実感しました。
関連記事
東北芸術工科大学デザイン工学部企画構想学科