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2024.08.09卓越した加飾技術でパッケージの可能性を最大限に引き出す
精英堂印刷株式会社代表取締役社長安部幸裕さん
精英堂印刷1階のショールームコーナーにて。これまでの受賞作品や商品サンプルなどが多数展示されています
米沢市にある精英堂印刷株式会社(以下、精英堂印刷)は商品パッケージやラベルといった包装材分野に特化した印刷会社。お酒のラベルや内装箱の他、化粧品や医薬品、食品などのパッケージ製造も手掛けています。代表取締役の安部幸裕さんに、パッケージ製造業の魅力ややりがい、同社の強みなどについてお話を伺いました。
全国コンテストで最高賞を何度も受賞。緻密で美しいラベル印刷
精英堂印刷といえば「シールラベル」の名手。全日本シール印刷協同組合連合会が主催する「シール・ラベルコンテスト」で、最高賞の経済産業大臣賞を何度も受賞しています。4年連続、9回目の最高賞受賞となった2023年の作品は、酒蔵メーカーさんのラベルでした。
「北雪酒造さん(新潟県佐渡市)の純米吟醸酒のラベルで、日本海をイメージした美しく重厚感あるデザインです。海に囲まれた佐渡島の波間に鮮やかな花柄が垣間見え、光の反射角度によって、天然記念物トキの絵柄が現れるところも面白いです」と安部さん。同コンテストには2000年から参加、「技術力や業界競争力を“第三者”の評価を通して高めていきたい」との想いで取り組んできました。
「当初は自由作品でコンテストに臨んでいましたが、現在は実際にお客さまに採用いただいたラベルを応募しています。入賞すれば商品のPRにもなりますので、お役に立てるのも嬉しいです」
「銀ツヤ蒸着の表面基材に5色印刷とUV疑似エンボスニス加工、さらに浮き出し用のエンボス加工などを施し、精密で緻密な絵柄に」と安部さん。印刷加飾技術の粋を集めていることが、一目でわかるラベルです(提供:精英堂印刷)
見る角度で「北雪」の文字の右上に天然記念物トキが現れる仕掛けが(提供:精英堂印刷)
2022年に最高賞を受賞した「L’ORIENT(ロリアン)スパークリング甲州720ml」(山梨県甲州市勝沼町 白百合醸造株式会社)のラベルでは、瑞々しい葡萄とスパークリングのはじける泡を、極細線の円のグラフィックで表現。樽をイメージした木目は複数のニス柄で繊細に表現しています(提供:精英堂印刷)
109年の歴史に支えられた確かな技術力
精英堂印刷の創業は1915年。創業者の須貝𠮷弥氏が米沢市表町で印刷業を始めたのがきっかけです。戦時中の長い混乱を経て1960年、地元酒造メーカーの依頼で包装材の印刷を始め、「パッケージに特化した印刷会社」という新たなスタートを切りました。
「印刷ラベルにニス引加工の必要が生じ、工場増設とともにニス引機を増設しました。
1967年にはトランプや花札など厚紙印刷も手掛けるようになっています」
1972年、シール印刷業にも着手。高度経済成長期の真っただ中で受注が急増、設備投資を繰り返すと同時に、社員の技術力も磨かれ、「包装材の印刷なら精英堂印刷」という地位を確固たるものにしていきました。
1964年に導入した高速自動菊全2色オフセット印刷機(提供:精英堂印刷)
当時新規開拓として行った花札・トランプ等の印刷(提供:精英堂印刷)
特筆すべきもうひとつの強み「水なし印刷」
平成に入り、「環境にやさしい印刷会社になる」という方針を打ち出し、1999年水なし印刷を導入。日本で初めてパッケージ印刷に水なし印刷技術を活用し、量産を可能にしました。水なし印刷とは、その名の通り水を使わない印刷。版の現像に必要な「湿し水」を使用せず、廃液も出さないのでCO2の削減にも繋がっています。水を使わないことでインクのにじみが少なく、輪郭や色の再現性に優れているという利点も。この技術をパッケージ印刷に応用している会社は珍しく、精英堂印刷はその第一人者とも言えます。
「水なし印刷は、環境に配慮した製品とお客さまの商品の美粧性・意匠性を高めることを両立させることができる技術です。またVOC(揮発性有機化合物)を発生させない3Wインキを採用するなど、環境保全に考慮した取り組みを長年続けているのも弊社の特徴です」
一般社団法人 日本WPA(日本水なし印刷協会)が定める、水なしオフセット印刷の認証マーク「バタフライマーク」。「パッケージ製品に水なし印刷技術を活用し量産を可能にした国内初企業」の証です(提供:精英堂印刷)
厚い紙に水なし印刷を施す場合、各版の見当合わせが難しく、精度の高い印刷技術が求められます。特殊なインクの調合も熟練の技が必要(提供:精英堂印刷)
毎年、様々な加飾技術が施される同社のオリジナルカレンダー(写真は2024年版)。ヒマワリには浮き出し加工と型押し加工をダブルで行い、より立体的に仕上げています。蒸着紙に表面加工のSMOL(スモル)を活用し、海面がキラキラと光る夏の海を表現。デザインと加飾の融合の素晴らしさを感じさせます(提供:精英堂印刷)
企業とのコラボで商品を開発、新しい取り組みも
ラベル・パッケージ印刷業の醍醐味は「製品が商品に変わるところ」と安部さん。
「製造過程中の“製品”が、当社で生産するラベルや内装箱をつけることにより“商品”として完成し、ECサイトや店頭に陳列される。自分たちの仕事が見える瞬間ですよね。そういうところが面白いし、やりがいを感じる部分です」
県内はもちろん、県外のお客さまも多く、大手製薬メーカーや食品メーカーとも取引がある同社。「お客さまと対する中でいろんな設計・デザインを企画できる点も魅力です。時には難しいオファーもあります。チャレンジを重ねることで、社内の技術力も上がりました。『お客さまから育てられた』と社員もよく言っていますね」近年では商品開発のプランニングから提案する事業も行っています。
「長年お付き合いのある酒造メーカー様から酒粕を有効活用できる方法はないか相談され、取引のある化粧品メーカー様を紹介し、コラボ商品を企画しました。完成したのが酒粕を配合したフェイスマスクです」
酒蔵メーカーの銘柄ごとの酒粕を配合した美容マスク。新潟県から始まり(手前)、その後山形県内の酒造メーカーにも展開(奥)。パッケージのデザインと印刷はもちろん精英堂印刷。各酒蔵メーカーや観光物産館などで販売しています
目指すは「グローバルニッチメーカー」
精英堂印刷の長い歴史で培われた技術力と、時流に乗った商品開発力、双方を熟知した安部さんが次に目指すものは何か尋ねました。
「山形県と米沢市に貢献するのはもちろんですが、当社のコア技術を全世界へもっと浸透させたいですね。擦れにくいパッケージや、水に強いけれども剝がしやすいラベルなど、当社のコア技術を生かした、海外輸出向けの製品をもっと研究開発していきたいです」
環境にもやさしい「剥がしやすいラベル」は完成しつつあり、今最終試験を行っている最中なのだとか。「海外はリサイクルにも厳しいですから。適合する製品の提供というのはまだ研究が必要ですが、もっともっと挑戦していきたいです」
夢は「グローバルニッチメーカー」と微笑む安部さん。製品の「顔」ともいえるラベルやパッケージ。その魅力を最大に引き出す数多くの加飾技術と環境にやさしい印刷技術。他社にはないたくさんの強みをもった同社が、世界にその存在を知らしめる日も遠くない気がしました。
「当社の技術をもっと活用していけば、何か面白いものが誕生するのではないかと思っています。そのためには数多くの困難な課題を解決しなければなりません。従業員同士で協力し解決するまでやり抜き、達成感を大いに味わって、“喜色満面”が社内のあちこちで見受けられる、そんな活気と笑顔が溢れる会社にしたいと思っています」
プロフィール
精英堂印刷株式会社代表取締役社長 安部幸裕さん
1968年生まれ。長井市出身。日本大学商学部卒業後、1991年山形銀行へ入行。鶴岡支店長などの要職を経て2021年、精英堂印刷株式会社の取締役に就任。2023年より現職。
勝負メシ 【米沢ラーメン】
「酒席翌日のあっさりラーメンははずせません。米沢市と高畠町のラーメンはほぼ食し、スープ・麺・具材の違いを味わうため、私なりのローテーションがあります」と安部さん。 「趣味の海釣りでは、釣った魚を晩酌のお供にするのが楽しみ」とも。