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2024.01.29物流サービスの中枢を担う、運送業の第一線とは
ベア・ロジコ株式会社 代表取締役社長 本田孝さん
平成28年(2016)に完成した天童市の本社新社屋の入り口にて。社名の「ベア・ロジコ」には創業者の苗字「熊澤」の一文字「熊」と、「運ぶ」という意味の英語「bear」の二つの意味が込められています
はるか昔、シルクロードの時代から人類は物資を運ぶことで文化や歴史を育み、発展と繁栄を繰り返してきました。ECサイトの普及やデジタル社会が加速する現代にとって「物流」はさらに重要な存在となってきています。ベア・ロジコ株式会社は、山形県内でも長い歴史を持つ運送会社。令和6年(2024)に創業70周年を迎える同社の代表取締役社長本田孝さんに、物流の世界、今後の展望についてお話を伺いました。
創業当初のトラック。戦後の復興と経済成長を支えました(提供:ベア・ロジコ株式会社)
食料難だった戦後の日本に「山形の米」を届ける
ベア・ロジコ株式会社の創業は昭和29年(1954)。戦後まもない日本の食料難の時代に、東京へ山形の米を売るためトラックを調達したことがきっかけで誕生しました。創業者は本田さんの祖父である熊澤芳一さん。トラックを借りていた小国町の運送会社から経営譲渡の話があり、「小国運送」という社名をそのまま受け継ぐ形で商売をスタートさせます。
「米や農産物の後は、豚や牛を生きたまま関東に運んでいましたが、県内でも加工ができるようになると、冷凍した精肉を運ぶようになりました。東北で冷凍車をいち早く導入したのも当社です。現在は食品や冷凍食品のほか、医薬品なども多く運んでいます」
平成6年(1994)叔父で現会長の熊澤貞二さんが社長に就任すると「ベア・ロジコ株式会社」に社名を変更。冷凍に強い会社のイメージを印象づけるためマスコットキャラクターを「シロクマ」としました。
道路を車で走っていると見かけるベア・ロジコのトラック。「シロクマ」のイラストが印象的です(CMより抜粋)(提供:ベア・ロジコ株式会社)
冷凍輸送を軸に着々と事業を拡大
「冷凍食品を運ぶならベア・ロジコ」と世間に知られるようになり、輸送業として業績をのばす一方、トランクルームなどの押入れ産業や引っ越し事業、福祉タクシー事業など、経営を多角的に展開。平成22年(2010)、熊澤貞二社長が会長に、お父様の本田孝之さんが社長に就任します。新体制のもと県内外に事業所を次々と増やし、平成28年(2016)には新社屋も完成。存在感を際立たせていきました。 本田さんは平成18年(2006)ベア・ロジコに入社。1年間ドライバーを務めた後、配車係、営業部長、生産管理、経営企画室と一通り現場で経験を積み、平成23年(2011)取締役、平成30年(2018)に専務取締役を経て、令和2年(2020)、代表取締役社長に就任します。
山形市緑町の新築西通りにあるトランクルームと福祉タクシーの車両(提供:ベア・ロジコ株式会社)
運送業だからこそ感じる倉庫業の大切さ
順調に業績を伸ばしてきたベア・ロジコ。新社長となった本田さんには、ある思いがありました。それは「運送業に不可欠な倉庫業に力を入れていくこと」。
「当社では平成3年(1991)に倉庫業許可を取得し、平成6年(1994)、上山市に低温貯蔵庫を開設しました。主に食品の原材料や精密機器などを保管しています」
上山市の低温貯蔵庫は、輸入した外国貨物を扱う「保税倉庫」と呼ばれる倉庫。デバンニング(輸入貨物をコンテナから取り出す作業)には輸出通関が必要になります。そのため通関士のいる川西倉庫株式会社(本社:神戸)とタッグを組み保管・運営をしています。
「医薬品の倉庫であれば薬剤師を常駐させるなど品質管理のため様々な規制があります」
ベア・ロジコに入社する前、川西倉庫株式会社に就職し「荷物の運搬だけでは見えなかった倉庫の内側を学んだ」という本田さん。商品を適切に管理する重要性と奥深さを再認識しました。
「当社は運送業ですが、倉庫の管理というのも重要な業務です。物流施設というものがあってようやく物流が届くのですから。運送業に倉庫業はなくてはならないものですね」
上山市の低温貯蔵庫は、保税倉庫として輸入した食品の原材料などを保管しています(提供:ベア・ロジコ株式会社)
令和元年(2019)に完成した物流センター「しろくま冷蔵」。県内最大規模を誇る冷凍・冷蔵設備を持つ倉庫です。「倉庫を持つことでできる提案もたくさんあります。運送業と倉庫業の併営は当社の強みなので、更に進化させたいと考えています」(提供:ベア・ロジコ株式会社)
運送業の未来を見据え、新しい業態へシフト
国の働き方改革関連法による「2024年問題*」が目前となる今、物流業界にも様々な変革が求められています。
「2030年までに日本の荷物の3割が運べなくなる、とニュースで騒がれていますが、東北に限っては4割ともいわれています」
*2024年問題
自動車運転業務の年間時間外労働時間の上限が960時間に制限されることによって発生する問題の総称。輸送のニーズが増加する一方でリソースは減少するという現象が懸念されている。
ベア・ロジコではドライバーの長距離時間労働を解消するため、中継地で積み荷を交換する「スワップ輸送」をいち早く導入。倉庫を増やすことで労働時間の短縮にもつなげています。
「働き方改革によって、労働時間はますます短くなっていきますので、中間地点(倉庫)を設けないと長距離は運べなくなります。全国的にも倉庫がどんどん増えてくると思います」
運送業と倉庫業を軸に、経営の多角化を続けながらも、日本の物流問題にも真摯に取り組み、改革を続けている本田さん。
「私どもは食品や医薬品をメインで運んでいますので、みなさまのライフラインを担っている責務があります。荷主さんとの交渉や従業員の働きやすい環境づくりなど、運べる量を減らさないための努力を絶えずやっていかなければならないですね」
「それを乗り越えた後、夢を語りたい」と微笑みます。私たちの暮らしに欠かせない「物流」、その主軸となる「運送」という仕事。時折見かける「シロクマ」の姿に感謝と尊敬の気持ちが芽生えてきました。
ベア・ロジコが倉庫業をはじめたのは「定年を迎えたドライバーが長く働ける場所をつくる」という目的もありましたと本田さん。以前から働きやすい環境づくりに尽力してきました
令和5年(2023)にトラックの車体をプリントで装飾するプリント工場を開設。天童市をPRする車体は関東方面でも人目を引いたそうです
プロフィール
代表取締役社長 本田孝さん
1981年生まれ。日本大学山形高等学校卒業後、荷主先である川西倉庫株式会社大井営業所へ入社。2006年ベア・ロジコ株式会社へ入社し、本社と上山の倉庫所長を担当。2011年取締役、2018年専務取締役を経て2020年代表取締役に就任。東北トラック協会青年部会副会長。
(提供:ベア・ロジコ株式会社)
休日の過ごし方【神社やお城めぐり】
「出張が多いので、行った先でいろんな神社や寺、お城を訪ね歩きます。最近見た中では熊本城が印象的でした」と本田さん。「出羽三山も好きです。月山には毎年家族で登っています」とも。登山では小学5年生の息子さんが一番体力があるそうです。