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2024.10.28

巡りくる季節を味わう 丹精込めた ぬくもりごはん

食堂あを

食堂あを

私たちの暮らす街では、さまざまなエリアにお店が開店し、日々のにぎわいを創出しています。その中でもひときわ異彩を放つのが創作日本料理の(とはいえ、そのように一括りにはできない)お店、昨年11月にオープンした「食堂あを」さん。気になっていた!という方も多いはず。今回はランチを中心に山形会議が取材しました。(2024年9月時点の情報です)

旬の食材で紡ぐ、伝統と新たな味わいに出合えるお店

カウンター4席とテーブル席が2つのこぢんまりとした店内。椅子は、ミッドセンチュリーのデンマークデザインの人気に貢献したハンス・ウェグナーによるYチェア。機能性を重視したモダニズムスタイルの椅子が、お店のコンセプトにもよく合います(画像提供:食堂あを)

カウンター4席とテーブル席が2つのこぢんまりとした店内。椅子は、ミッドセンチュリーのデンマークデザインの人気に貢献したハンス・ウェグナーによるYチェア。機能性を重視したモダニズムスタイルの椅子が、お店のコンセプトにもよく合います(画像提供:食堂あを)

山形駅より徒歩5分、山形市桜町の城南跨線橋たもとにある「食堂あを」。洗練された佇まいから自ずとお料理への期待が膨らみます。引き戸をカラカラと開くと、ゆったりとした心地よい音楽が流れていて、お出汁のふわっとした香りに包まれながら、やさしい笑顔に迎えてもらい着席。銘々のテーブルには、予約時に伝えた名前の書かれたメニュー表が。こまやかなおもてなしに、さっそく心がほぐれます。

メニュー表

ランチ・夜ともコース料理となっており、ランチはメインをお肉かお魚から、釜飯は種類を選びます。アレルギーや苦手なものは、予約時に聞いてくれるので安心です(お昼は前日、夜は2日前までにご予約を)。この日はカウンター席。オープンキッチンのカウンターは、料理長の丁寧な手しごとを間近で見られるので、お料理がサーブされるまでの時間さえ愉しめる特等席でした。

山形牛と悪戸芋の塩芋煮

まずは御椀。この日は山形牛と悪戸芋の塩芋煮が運ばれてきました。山形市村木沢の伝統野菜は、とろっとしたやわらかさとねばりけが特徴の里芋で、くちどけのよい甘みの山形牛とぴったり。シャキシャキとしたみずみずしい葱をアクセントに、あえて「塩味」というのが、コースのはじまりの吸い物としても、地元民への気配りとしてもうれしい一杯です。

たくさんの食材を盛り込んだ贅沢なプレート

前菜は、料理長が自ら現地で買い付けしたという益子焼の平皿に。目でも愉しめるたくさんの食材を盛り込んだ贅沢なプレートです。確かに単に“和食”とくくることができない一皿。ひとつとして同じ食感や味のものが存在しなく、何をいただいても料理法や味付けにひと手間があり、思わず笑みがこぼれます。

フルーティな出汁が特徴の焼き舞茸と菊の酢の物
イタリアンパセリのクラッカーとサーモンリエット
茗荷(みょうが)のピクルス、シャインマスカットとごま豆腐ソースの下に見えるのは無花果(いちじく)の赤ワイン煮、燻製だだちゃ豆
蜂蜜を添えたゴルゴンゾーラのムース

フルーティな出汁が特徴の焼き舞茸と菊の酢の物、イタリアンパセリのクラッカーとサーモンリエット、茗荷(みょうが)のピクルス、シャインマスカットとごま豆腐ソースの下に見えるのは無花果(いちじく)の赤ワイン煮。燻製だだちゃ豆、そして蜂蜜を添えたゴルゴンゾーラのムース。どれもが一辺倒ではない深みのある味わいに仕上げてあります

そしていよいよ強肴(しいさかな)、魚かお肉を選べるメインのプレートの登場です。鰹のたたきと焼き茸のマリネに季節の野菜には香味ソースをかけて。光り物があまり得意ではない人でも、こちらは新鮮でクセがなく、おいしくいただけます。

強肴(しいさかな)

この日のお肉料理は庄内豚の角煮。お肉は一度炊いてから揚げているので表面はパリッと、そして中はほろほろとほぐれていきます。黒糖黒酢あんが甘みと酸味、旨みをプラス。ふわふわでジューシーな茄子、表面がカリカリとしたブロッコリーの素揚げなど、添えてある野菜は食感でも舌を愉しませてくれます。

庄内豚の角煮 庄内豚の角煮

ここまででも大満足だというのに、ごはんの炊きあがる香りでさらに食欲をそそられます。素材の味がしっかりと染み込む釜飯は、つや姫を中心に山形県産米を使用しているそう。この日は天然真鯛、秋刀魚、紅鮭の3つの旬魚から好きな釜飯を選べました。

どんな食材をも受け取める、白米を生かした釜飯。くつくつと上がる湯気を見ていると期待が膨らみます

どんな食材をも受け取める、白米を生かした釜飯。くつくつと上がる湯気を見ていると期待が膨らみます

紅鮭ととうもろこしの釜飯
紅鮭ととうもろこしの釜飯
天然真鯛と山葵(わさび)の釜飯
天然真鯛と山葵(わさび)の釜飯

(左上・右上)紅鮭ととうもろこしの釜飯。彩り鮮やかな美しさ、塩味と甘みを感じつつ「夏野菜×秋の走りの魚」という組み合わせが、季節の変わり目を実感(左下・右下)天然真鯛と山葵(わさび)の釜飯。パリパリの皮目とふっくらした身を味わったあと、締めはお茶漬けで

(1・2枚目)紅鮭ととうもろこしの釜飯。彩り鮮やかな美しさ、塩味と甘みを感じつつ「夏野菜×秋の走りの魚」という組み合わせが、季節の変わり目を実感(3・4枚目)天然真鯛と山葵(わさび)の釜飯。パリパリの皮目とふっくらした身を味わったあと、締めはお茶漬けで

3種のお豆(金時豆、花豆、青豆)の豆乳ムース和え

最後はさっぱりと珈琲に、この日は3種のお豆(金時豆、花豆、青豆)の豆乳ムース和えがデザート。手づくりの栗の渋皮煮が秋の訪れを感じさせてくれます。コースのランチは、お昼からとても贅沢な時間でした。

多彩なギャップに五感をくすぐられたら、きっと再訪したくなる

箸置きや花瓶など、かわいらしい猫モチーフの小物がお店のあちらこちらに

箸置きや花瓶など、かわいらしい猫モチーフの小物がお店のあちらこちらに

板場に立ち、手際よく調理するのは料理長・大山 正さん。関東の老舗で和食を修行し、30年以上も日本料理に携わりつつ、多様なジャンルの知見を深めてきたのだそう。「食堂あを」のオープンを待ち望んだ料理長のファンも多くいらっしゃったというのもうなずけます。

『「あ」は始まり、「を」は終わりの前。終わることなくまた巡りゆく季節―』。店名に込められたコンセプトは季節の食材絶えず提供したいという大山さんの思いから。「“食堂”を屋号に入れたのも、和食や日本料理に縛られることなくおいしいものをつくりたいからです」とやさしい笑顔が印象的です。

猫モチーフのインテリアは大山さんのセレクト。お店のロゴの丸みも気に入っているという、生粋の“かわいいの好き”という大山さん。料理人の繊細さとそのギャップに萌えるファンが多いのも納得

猫モチーフのインテリアは大山さんのセレクト。お店のロゴの丸みも気に入っているという、生粋の“かわいいの好き”という大山さん。料理人の繊細さとそのギャップに萌えるファンが多いのも納得

そして調理長の隣で微笑むのは、「食堂あを」のホールやパティシエを務めるスタッフの佐藤里香さん。前職は飲食ではなかったという佐藤さんですが好きが高じてこの業界に。大山さん曰く「何でも相談できます。味はもちろん、食材や提供の仕方なども提案してくれたり、私がつくれないものを“これはどう?”とサッとつくってくれたり。何も言うことがないくらい。今のお店になくてはならない存在です」とのこと。大山さんと佐藤さんのバランスとその化学反応によって、お店が好循環しているのは雰囲気からも伝わってきます。

地元の猟友会にも所属しているという佐藤さん。「やってみたい」が口癖という佐藤さんは好奇心の塊のような方で、アイデアも豊富

地元の猟友会にも所属しているという佐藤さん。「やってみたい」が口癖という佐藤さんは好奇心の塊のような方で、アイデアも豊富

お茶漬けの付け合わせ、香のもの。しわくちゃな姿も愛おしい、さくらんぼのお漬物も佐藤さんお手製

お茶漬けの付け合わせ、香のもの。しわくちゃな姿も愛おしい、さくらんぼのお漬物も佐藤さんお手製

ほうじ茶のチーズケーキは夜コースの人気メニュー。香味深いほうじ茶と濃厚でくちどけのよいクリームチーズが心を和ませてくれます。お酒とこちらをいただきたいなら、ぜひディナータイムにご予約を

ほうじ茶のチーズケーキは夜コースの人気メニュー。香味深いほうじ茶と濃厚でくちどけのよいクリームチーズが心を和ませてくれます。お酒とこちらをいただきたいなら、ぜひディナータイムにご予約を

「食堂あを」の味の決め手のひとつが和食の礎でもある出汁。昆布とかつお節を使用し、特別変わったものは入れていません。それでも日によって出方が変わるというので、毎日微調整してこの店の味をつくっているそう。

「食堂あを」の味の決め手のひとつが和食の礎でもある出汁。昆布とかつお節を使用し、特別変わったものは入れていません。それでも日によって出方が変わるというので、毎日微調整してこの店の味をつくっているそう

「お客さまからは“野菜の種類が豊富”と言われることが多いです。仕入れはいろんな場所に赴き、直接目で見て買うことが多いですね。山形県産の食材をメインに使用していますが、地産地消だけにこだわるのではなく“お客さんに食べさせたい、喜ばせたい”という食材は山形県産以外にもあるので、そこは県外のおすすめ食材も使います」と大山さん(画像提供:食堂あを)

「お客さまからは“野菜の種類が豊富”と言われることが多いです。仕入れはいろんな場所に赴き、直接目で見て買うことが多いですね。山形県産の食材をメインに使用していますが、地産地消だけにこだわるのではなく“お客さんに食べさせたい、喜ばせたい”という食材は山形県産以外にもあるので、そこは県外のおすすめ食材も使います」と大山さん(画像提供:食堂あを)

「食材は旬の走りをできるだけ取り入れたいです。せっかく外食の機会なので、お客さまにはサプライズしたいじゃないですか」と大山さん。サービス精神が旺盛なお二人は、手を抜けない真面目さも似ています。「まずは日々のお客さまの笑顔を大切にしたい」

春夏秋冬のグラデーションが感じられるひと手間によって、訪れる度に、食材が表情を変えたおいしさにここでは出合えます。ハイエンドというにはアットホームで、時間を忘れてしまいそうな心地よい空間。なにしろ「あを」には「ん」がない、終わりがない場所。ご褒美に、もしくは大切な人と、(お財布が許す限り)何度でも通いたくなるお店です。小さな幸せが日常風景に紛れていることを実感できる「食堂あを」さん。近くにあってうれしいと思うお店です。

食堂あを

食堂あを

山形市桜町1−19
※ご予約やコースなど詳細はHPでお確かめください

https://kitchen-ao.com/
外観

この記事を書いた人
みどりかいぎさん

みどりかいぎさん
Profile 山形会議のキュレーター、元・書店員。青森生まれ、盛岡、仙台育ち、そして山形へ。ダイエットとリバウンドを繰り返す人生は、日々糖質との闘い。レモンサワーがあれば大丈夫。
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