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2025.6.20上杉鷹山公ゆかりの地で、ここでしか味わえない「かてもの」イタリアンを
山里Magari

2025年5月にオープン。店内に入ると、敷地の庭と関根地区の豊かな自然が一望できます(提供:山里Magari)
食べられる野草「かてもの」とイタリアンの融合
米沢市から福島県境へと向かう道の途中、豊かな田畑と山あいの中に、「山里Magari」はあります。「Magari(マガーリ)」とは、イタリア語で「だったらいいな」という意味。フィレンツェで修行したシェフの高須孝博さんと、ワインソムリエの綿谷真由美さんが営むイタリアンレストランです。米沢といえば、第9代米沢藩主、上杉鷹山公のお膝元。上杉鷹山公が飢饉に備えてウコギの垣根を奨励したことはよく知られていますが、そうした食べられる野草を「かてもの」と呼ぶことはご存知でしょうか。「山里Magari」は米沢で採れる新鮮な「かてもの」をイタリアンで楽しむことができるお店です。




山里Magariの敷地にはウルイ(左上)やタラの芽(右上)、シャク(左下)などの「かてもの」がたくさん。ウコギの垣根もあります(右下)。

「ウコギを練り込んだマルタリアーティ(手打ちパスタ)のトマトソース」。カラトリーレストは米沢市の幸林工芸さんに特注で作っていただいたもの

同じくウコギを練り込んだ手打ちパスタのラザニア。米沢牛も使用しています(提供:山里Magari)
メニューは地元の食材をふんだんに使ったコース料理
山里Magariのメニューは、ランチ・ディナーともにコース料理のみ(前日までの完全予約制)。「市街地にあるお店でもないですし、わざわざここまで訪ねてくださるのだから、コース料理でゆっくり味わって欲しいんです」と綿谷さん。前菜盛り合わせ、選べるパスタ2種、ドルチェとカフェ、自家製パン付きのコース4,000円と、選べるメインディッシュを加えたコース5,500円の2つがあります。さらに高須シェフの特別コース7皿8,000円~も(1週間前までに要予約)。米沢の地で育まれた「かてもの」が見事なイタリアン料理に変身した、他では味わえない品々が登場します。(値段は全て税込、2025年6月現在)

前菜盛り合わせ(時計まわり順に、高橋さんのアスパラ、カルパッチョ、米沢熟成牛、きのことタラの芽、ウルイとシラス、オカヒジキと新玉ねぎ、ワラビの白ワイン煮、シャクとニンジン、真ん中はフキのトマト煮(提供:山里Magari)

米沢牛のタリアータ 山椒をつかったソースとパルメジャーノチーズ(提供:山里Magari)


手打ちのニョッキ、ゴルゴンゾーラチーズとフキノトウのソース(写真左)、コースの内容は、その日仕入れた食材や採れた野菜によって変わります。ワインは山形県とイタリアを中心に、ソムリエの綿谷さん選りすぐりをラインアップ(提供:山里Magari)

綿谷さん考案の「かてもの」を使ったモクテル「モナンカシス風味のスギナ茶 炭酸割り」。ほかにも「クロモジのグレープフルーツ」などがあります
米沢への移住を決意させた「かてもの」との出会い
高須さんも綿谷さんも県外出身。なぜ米沢の山あいにレストランを開業したか、その理由を訪ねました。「東京都内でイタリアンレストランを営んでいたのですが、コロナ禍を経て、二人とも東京とは違う働き方をしたいな、と思っていたんです。一緒に農業もしたいと考えて、いくつか候補地をあげていたのですが、友人が米沢に移住していたことを思い出し、彼女のもとを訪ねました」と綿谷さん。そのご友人というのが、山形会議でも登場したことのある里山ソムリエの黒田三佳さん。何度か訪ねるうちに、米沢の豊かな自然と温かい人々、そして何より「かてもの」をはじめとした食材の豊富さに魅力を感じたといいます。
「黒田さんや地元の方々と交流していくうちに、私たちもどんどん米沢に惹かれていきましたね」
念願の畑付き古民家を購入し、米沢に移住したのが2024年9月。黒田さんと「かてもの」をテーマにした料理教室やイベントを開催しながら、レストラン開業の準備を進めていったそうです。

敷地に植えた野菜や自生する「かてもの」について説明してくれた綿谷さん。カキドオシ、ウド、ワラビ、サルナシ、ブルーベリーなど数えきれないほどの食材が辺り一面に育っています

東京出身の綿谷さん。長く商社に勤めていましたが、一念発起し退職。ソムリエの資格を取得した後、単身イタリアへ。本場のワインづくりを学び帰国し、パートナーの高須さんとイタリアンレストランを経営。黒田さんとは高校時代の同級生

「広い敷地を生かしてバーベキューをする場所も作っていきたいですね」と綿谷さん
イタリア料理との相性も良い「かてもの」
「かてもの」は高須さんにとって、とても興味深い食材。「いろいろ試しながらイタリア料理に取り入れたいと思っています。クロモジやヒョウは肉料理とも合うし、サンショウは実も花も葉っぱも食べられる、優れた和のスパイスです」
「素材に近いのがここの魅力」とも。地産地消へのこだわり、そして新鮮なものを新鮮なうちに提供するという信念が、山里Magariの完全予約制のスタイルに繋がっているようです。

古民家を改装する時に「もっともこだわった」という厨房で調理をする高須さん。地元の食材へのこだわりは、かてものに限らず、敷地にある蔵では米沢市産ブランド豚「天元豚」の生ハムづくりも進行中です

高須さんは愛知県出身。上京後、高級イタリアン「アントニオ」、イタリア人オーナーの店「ブッテロ」などで腕を磨き、イタリアへと渡りました。綿谷さんとはフィレンツェで出会い、その後都内で共にレストランを経営
「かてもの」で味わう、米沢イタリアンを世界へ
「米沢は山の水、自然、謙虚な人たち、歴史、文化がそろっていて、本当に素敵なところです。一日、一週間、一か月、一年、すごくメリハリがあり楽しい。こんなに季節を感じる場所は他にないと思っています」と綿谷さん。「かてもの」はとてもローカルで、小さな食材。しかし、こだわればこだわるほどグローバルになっていき、「世界で唯一のイタリアンになる」と二人は考えています。
これからレシピをどんどん増やしていき、後継者も育てていきたいですね」(高須さん)
「米沢といえば、かてものイタリアン。これを米沢全体に広め、世界中から人を呼んで、この素晴らしい米沢を皆さんに体験してもらいたいと思います」(綿谷さん)

取材時にいただいた「フキのペペロンチーノ」。「フキと言えば煮物」という概念を吹き飛ばしてくれるおいしさでした
「ワインはもちろん、食材や料理の知識も豊富で、「おもてなし」のプロフェッショナルを感じせる綿谷さん。食材の特徴を熟知し、手際よく料理を作る職人肌のシェフ、高須さん。「おいしい山形」のポテンシャルを引き上げてくれる人々がまた増えました。「だったらいいな」を米沢で実現しているお二人の「米沢かてものイタリアン」のこれからにますます注目です。




青と黄色を基調にした店内(左上)。綿谷さんおすすめのワインが楽しめる豊富なワイングラス(右上)。米沢の伝統工芸品「お鷹ぽっぽ」もお出迎えします(左下)。壁には陶器の町として有名なシチリア島のカルタジローネのお皿が(右下)

近所に住む親友の黒田三佳さん宅の敷地にて。「かてもの」との出会いは黒田さんとの交流が発端でもありました
お知らせ



黒田三佳さんの新刊『森とかてもの』は、暮らしの中で見つけた「食べられる野草」を楽しく、わかりやすく紹介したエッセイ集。綿谷さんと高須さんも座談会で登場しています。