life
2022.06.10馬との出会いの場と癒しを、すべての人へ
うまのすけCafe 代表 高橋千秋さん
2022年3月、山形市にある蔵王みはらしの丘ミュージアムパーク内に話題のカフェが誕生しました。蔵王連峰を一望するこの丘で、ポニーとふれあえる全国でも珍しいカフェである「うまのすけCafe」のこと。代表の高橋千秋さんにその想いを伺いました。
自然を感じながら馬にふれあい、グルメを堪能。心がほぐれるカフェ
カフェ周辺をおさんぽするのが開店前のルーティン。歩幅が揃っている姿は息ぴったり。“馬が合う”とは、まさにこのことですね ※撮影時にはマスクを外していただいております
コストコかみのやま倉庫店から北西、「はらっぱ館」近くの緑豊かなエリアに位置する「うまのすけCafe」。10席ほど設けてあるカフェスペースと屋外テラスがあり、ドリンクやソフトクリーム、ランチをいただくことができます。隣接する厩舎にいるのは雌のポニーのロイちゃん10歳。ニンジンの餌やり体験(税込100円)を楽しめます。(金額はすべて2022年6月現在のものです)
大きな窓で開放的なカフェスペースからはロイちゃんの厩舎が、晴れた日には蔵王連峰が一望できる心地よい窓際席
人気NO.1メニューのフルーツカップソフト(税込550円)。てづくりのお馬さんクッキーがちょこんと顔を出す姿にキュン♡濃厚なソフトクリームを口に運んだ瞬間に“うま!”っと声が出ます(馬だけに)
おすすめメニューはサラダ・ドリンク付きのカレー(税込1,000円)。ひき肉の旨みが溶け込んだ野菜たっぷりの、うまのすけ特製のカレーは、子どもでも食べられるようにと、やさしい辛さ
人生を変えた“ホースセラピー”での体験
千秋さんは山形市内の障がい者支援施設に35年間、勤務していました。転機が訪れたのは2001年。川西町にある施設でホースセラピー(障がい者乗馬)を行っていると知り、ご自身の勤める施設の利用者さん数名を連れていきます。その中で、いつも笑顔を見せない聾唖(ろうあ)の利用者さんが乗馬することに。緊張しながらも片足をあげて鞍にまたがり、馬がゆっくりと歩き出した途端、その彼女が今まで見せたことのない満面の笑みを見せたそうです。「初めて見る彼女の笑顔を写真に収め、ご両親に見せたところ大号泣されました。“何十年もこんなに笑った顔を見たことがなかったんです。ありがとうございます”という言葉をかけられました」。この体験が、現在までの活動につながっています。
「あのときの感動は忘れられません」と千秋さん。当時の利用者さんとご家族たちが、お店に会いにきてくれることも多いそうです
月に一度、利用者さんをホースセラピーに連れていくうち、“私たちの施設園内にも乗馬施設を”と勤め先に直談判。2005年、ついにその夢は叶います。厩舎掃除から馬の扱い方や手入れ、調教の仕方や乗り方、障がいのある方への乗馬アプローチなど、県外の牧場で馬に関するノウハウを千秋さんは学びます。こうして施設内に念願の乗馬施設が完成しました。
「障がい者乗馬まいんどパーク」と名付けられた園内の乗馬施設(写真提供:高橋千秋さん)
その後、まいんどパークは、施設内の利用者さんをはじめ山形市内の福祉施設、養護学校、特別支援学校の児童・生徒さんにも乗馬体験を提供し、年間1,500人あまりが利用するようになりました(写真提供:高橋千秋さん)
もうひとつ印象的な出来事が2006年にあったといいます。弛緩性脳性小児麻痺で一人では座位を保つことができない車椅子の息子さんに乗馬をさせたいと、お母さまが来園されたときのこと。スタッフが同乗し、本人を抱えての乗馬から始まります。それから一人で乗せ、馬の両側にスタッフを二人ずつ配置し、落馬防止のサポート。360度倒れ込みながらの乗馬から、回を重ねる度に自分の身体を両腕で支えるようになり、自分で身体を起こす回数が徐々に増えていったそうです。こうして2年という歳月を経て、ついに一度も倒れ込むことなく、一人で座位を保ちながら馬に乗れるようになったそうです。
「その方はそれからというもの、車での移動中、後部座席でずっと横になって天井を見上げていたのが一人で座っていられるようになり、車窓の風景を楽しめるようになったんです。トイレも介助なしで行けるようにもなりました。ホースセラピーを通して人生が変わったんですよ」と千秋さん。「乗馬は身体機能の回復はもちろん、精神的な自信や生活基盤の獲得を得られます。それはご本人だけでなく、ご家族や周りで支える人たちの笑顔にもつながります」
愛犬のジュエルくん。“犬馬の労”(主君のために力を尽くす)という言葉があるように、ロイちゃんやジュエルくんは、千秋さんの大切なパートナーです
馬と人。みんなをつなぐ場所をつくりたい
うまのすけCafeのロゴは、千秋さんが実行委員長を務める馬まつりのキャラクターと名前がモチーフ。おなじみのロゴを使用することで、馬の魅力を伝える活動への認知度アップの一環を担っているのだそう
2007年より「日本一たのしいやまがた馬まつり」というイベントを開催している千秋さん。たくさんの人に馬の魅力を知ってもらえる場所をつくりたいと2018年、支援施設の早期退職を決意。カフェのオープンまでには、立地やコロナ禍での開業などさまざまな課題がありました。“馬には乗ってみよ、人には添うてみよ”(何事も経験しないとわからない)という言葉があるように、千秋さんはいつでも前向きです。「やりたいと思ったことは、声に出してきました。やってみないとわからないですし、思っているだけでは伝わらない。言葉にすることで、使命感も生まれたり、誰かが手を差し伸べてくれたりも。今回だって、夢は叶うと信じていましたから」。
そうして、うまのすけCafeは支援施設や馬まつりで知り合った方、クラウドファンディングなど多くの協力を得てオープンすることができました。それは、千秋さんが今までたくさんの人を笑顔にしてきた証拠。オープンして数カ月、すでに大盛況のカフェになっています。
取材中にカフェに訪れた女の子。最初は怖がっていましたが、にんじんを食べさせているうちに慣れてくる様子が微笑ましいヒトコマでした ※掲載許可をいただいて撮影しました。ママさんありがとうございます♡
ポニーのロイちゃんのほか、月に一度大きなお馬さんとふれあえるイベントも開催。うまのすけCafeのInstagramをチェックしてくださいね(写真提供:あかかいぎさん)
“馬の耳に念仏”・“馬子にも衣装”・“馬耳東風”など慣用句が多いように、馬とのつながりは昔から。人に寄り添うことができる馬の魅力を伝えたいと、これからも千秋さんは山形のこの地で、ホースセラピーを通して障がい者の方はもちろん、子どもから大人までもっともっと多くの人を、笑顔にしていくはずです。