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2023.04.28

素材と対話し、伝統を紡ぎ続けるものづくり

オリエンタルカーペット株式会社 代表取締役社長 渡辺博明 さん

かいぎさん
工房内にて。「当社ではデザインの打ち合わせから始まり、糸づくり、染色、織り、仕上げまで一貫生産を行なっています」と代表取締役社長の渡辺博明さん

工房内にて。「当社ではデザインの打ち合わせから始まり、糸づくり、染色、織り、仕上げまで一貫生産を行なっています」と代表取締役社長の渡辺博明さん

室内では靴を履かない文化の日本人にとって、足もとのアイテムはこだわりを持っている人が多いはず。
山辺町にあるオリエンタルカーペット株式会社(以下オリエンタルカーペット)は「足もとからのおもてなし」をブランドコンセプトとした「山形緞通(だんつう)※」を展開し、創業から約90年間地域の暮らしを足もとから支えています。今回は代表取締役社長の渡辺博明さんに伝統技術のことや、2つのショールームのお話、今後の展望などをお伺いしてきました。

※緞通(だんつう)とは、中国伝来の世界最高級のじゅうたんのこと。重厚な佇まいと肌触りが特徴。

革新的な視点からはじまった山辺の産業ものがたり

オリエンタルカーペット(旧合名会社ニッポン絨毯製造所)は、1935(昭和10)年、渡辺順之助氏(博明さんのご祖父様)によって創業されました。
当時は東北を襲った冷害凶作による金融不安で子女が身売りされるほど社会情勢が厳しい時代。木綿織業を営んでいた順之助氏は“働き口の少ない女性たちが、安心して働ける場所をつくれないか”と模索します。そんな時、親交があった絨毯商の佐野直吉氏から“中国にある高級絨毯(緞通)をつくらないか”と誘われました。
「祖父は“絨毯づくりは景気の波に左右されにくい産業になるのではないか”と考え、始めることを決意したそうです。そこで、この町に7人の中国人を招き、製作・製造技術を学びました」と渡辺さん。2年にわたる研修の結果、国内初となる羊毛を原料とした中国緞通の技術導入に成功し、この山辺に絨毯づくりの産業が生まれたのです。

「学ぶ側も一生懸命だったからこそ、教える側も真摯に教え、この産業がたった2年でこの地に根付いたのだと思います」と渡辺さん。創業者の“地域への想い”が人々を動かしました

「学ぶ側も一生懸命だったからこそ、教える側も真摯に教え、この産業がたった2年でこの地に根付いたのだと思います」と渡辺さん。創業者の“地域への想い”が人々を動かしました

創業当時の様子。地元で暮らす女性たちが、織り手として活躍しました(写真提供:オリエンタルカーペット株式会社)

創業当時の様子。地元で暮らす女性たちが、織り手として活躍しました(写真提供:オリエンタルカーペット株式会社)

一貫生産の体制でよりよい品質のものを

オリエンタルカーペットは、中国の技術を受け継ぎながらも日本人の感性に訴える絨毯へと独自の進化を遂げ、全国の百貨店や展覧会を催しての販売をスタートさせました。
やがて優れた品質と高い芸術性が評判となり、公共施設などの建築分野の特注カーペット、皇居新宮殿、国会議事堂、海外ではバチカン宮殿など、名だたる施設に納入されるまでになります。
国内のみならず海外の人々をも魅了し、愛される山形緞通はどのような工程でつくられるのでしょうか。
「当社では糸づくりから染め仕上げ工程まで日本で唯一、一貫管理の絨毯づくりです。職人も高い技術力を持ち合わせているので、これまでも納入先のさまざまなオーダーに応えてきました」
伝統的な技を用いて作られる繊細なカーペットの職人の中には、オリエンタルカーペットのものづくりに魅了され、感銘を受けた県外出身者も多くいるといいます。
「雪国に住んだことがないような女性たちが、“オリエンタルカーペットの職人になりたい”と入社を希望してくれるのです。それは、山形緞通の“品質こそ、デザインなり”の工房に息づく精神が、社会に認知されたことにより、ものづくりの感性を持った若者へのリクルートにもつながっていると思います。高い志を持ち、職人として当社を支えてくれる彼女たちの今後が楽しみですね」と渡辺さんは微笑みます。

工場内には2万色程の染色済の糸がストック。色の配合から染色まで全て同社内で行なっています

工場内には2万色程の染色済の糸がストック。色の配合から染色まで全て同社内で行なっています

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織りの工程。実施図案を見ながら織り進めていきます。(写真上)手織り作業の様子。熟練した職人でも1日で織り進められるのはわずか数センチ。根気がいる作業です(写真下)手刺し作業の様子。工具を使い、織り進めます。ダイナミックに見えて実はとても繊細な作業。熟練した技が光ります(写真提供:オリエンタルカーペット株式会社)

織りの工程。実施図案を見ながら織り進めていきます。(1枚目)手織り作業の様子。熟練した職人でも1日で織り進められるのはわずか数センチ。根気がいる作業です(2枚目)手刺し作業の様子。工具を使い、織り進めます。ダイナミックに見えて実はとても繊細な作業。熟練した技が光ります(写真提供:オリエンタルカーペット株式会社)

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仕上げの作業。表面を綺麗に削りだしたり、毛羽立ちをなくすため細かく確認し、手作業で整えます(写真提供:オリエンタルカーペット株式会社)

ストーリーをデザイナーと共に造り上げていく

山形緞通では、山形市出身の奥山清行氏をはじめ、隈研吾氏、千住博氏など名だたるデザイナーとのコラボレーション製品を展開していますが、そこには大きな決断があったと言います。
「2006年に5代目社長として就任しましたが、当時はリーマンショックや東日本大震災の影響で、会社の売上は低迷していました。何か手を打たなければと思っている中、工房見学などで来社される方たちが当社のものづくりの現場を見て、皆さんが感動してくださるんです。その姿を見た時、もっともっと多くの方に知っていただければ、当社の絨毯を敷いてくださるお客さまが絶対いるはずだと思い、我々の絨毯づくりを知ってもらうための施策を強化しました」
その時出会ったのがブランディングデザイナーの西澤明洋氏。打ち合わせを進める中、ものづくりに対して共鳴し合った2人は、山形緞通のブランディングに取り組み、一般住宅向けのアイテムを展開。玄関マットサイズのものや、リビングのラグサイズなど、暮らしを彩るアイテムを次々世に送り出していきます。今では新居を購入した若い方々が購入したりと、新たな客層が増えているそうです。

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デザイナーズラインの一部。左上/隈研吾「KOKE」、右上/ minä perhonen「birds in the forest」、左下/ 千住博「SUIJIN」、右下/ 奥山清行「UMI」。個性溢れるデザイナーとのコラボレーションが並びます(写真提供:オリエンタルカーペット株式会社)

デザイナーズラインの一部。1枚目/隈研吾「KOKE」、2枚目/ minä perhonen「birds in the forest」、3枚目/ 千住博「SUIJIN」、4枚目/ 奥山清行「UMI」。個性溢れるデザイナーとのコラボレーションが並びます(写真提供:オリエンタルカーペット株式会社)

渡辺さんにとってのブランディングは“ことづくり”だと言います。
「ブランディングによって製品ラインナップを整え、それぞれのコンセプトを周知させる。インテリアのシーンでのモダンが山形緞通のコンセプトです。もう一つ大事なことは“ストーリー”。オリエンタルカーペットの歴史であったり、一貫管理されたものづくりにはストーリーがある。そのことを情報発信として言葉で伝えるようにしました」

見て触れて、山形緞通を直接感じられる空間づくりを

2020年10月、オリエンタルカーペットは新たな取り組みを始めます。それは、東京にショールームをオープンすることでした。
「本社がある山辺町に来ていただければ工房を見学し、選んでくださることは可能ですが、多くのお客さまはオンラインや取り扱い店舗でしか接点がありません。そこで、商品を熟知した当社の社員がお客さまにダイレクトに製品コンセプトなどをお伝えすることが一番だと思ったのです。来場されたお客さまには実際に手に取り、ゆっくり商品を感じてほしいですね」と渡辺さん。商品に触れてもらえれば納得して購入いただけるという品質への自信と、お客さまへの真摯さがうかがえます。

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天井は3m60cmと高く、開放感溢れる空間。山形緞通の全ラインナップが揃っており、見ているだけで心が躍ります。オーダーメイドやメンテナンス等の相談も受け付けているそう(写真提供:オリエンタルカーペット株式会社)

「足元からのおもてなし」をこれからも

「我々の納品先は、皇居や迎賓館など入れる方が限定する施設が多かったのですが、2012年の歌舞伎座をリニューアルした際に、メインロビー大間に当社の手刺緞通を納入させていただきました。
すると、それを知った山形の方々から“歌舞伎座に行って見てきたよ”とか、オープンすぐに行かれたある知り合いのお客さまには“嬉しくて絨毯に頬をこすりつけてきちゃった”など嬉しいお言葉を頂戴しました。
歌舞伎座に入った瞬間に、足もとの快適性はもちろん、装飾性という視覚的にも高揚感を感じていただけるお手伝いができていることをとても嬉しく思いました」と目を輝かせる渡辺さんの姿が印象的です。
今後の展望をお伺いしたところ、山辺町の本社ではお客さまに来ていただいた際に製品を感じながらリラックスできる空間づくりなどを新たに考えているそうです。
取材で伺った際、お話をお聞きした部屋には80年以上も前の山形緞通が敷いてありました。長い年月を経たものとは思えない美しい風合いと肌触りにとても驚き、同時に山形緞通の研鑽とこだわりが最上級の品質により体感した瞬間でした。
これからも私たちの足もとを支え、そして目で見て、触れて、世界中の人々を魅了する製品を発信し続けるオリエンタルカーペット。山形という地域の誇りをこれからも多くの場所で目にする機会が増えそうです。



プロフィール
オリエンタルカーペット株式会社 代表取締役社長 渡辺博明さん

青山学院大文学部英米文学科卒。山形テレビを経て1991年にオリエンタルカーペットに入社。企画部長、総務部長、常務を経て2000年に専務に就任し、06年から社長を務める。

オリエンタルカーペット株式会社

山形県東村山郡山辺町山辺21

HP
https://yamagatadantsu.co.jp/
(写真提供:オリエンタルカーペット株式会社)

(写真提供:オリエンタルカーペット株式会社)

渡辺さんの元気の秘訣

国内や海外など出張が多いという渡辺さん。
健康でいることも会社の代表でいるため大切だと言います。
「外食が多くなるため、家では奥様の手料理を食べることが元気でいられる秘訣ですね」とちょっと照れくさそうに笑う渡辺さんでした。

渡辺さんの元気の秘訣

この記事を書いた人
たいこかいぎさん

たいこかいぎさん
Profile 山形会議キュレーター。上山市出身。お酒を愛するアマチュア打楽器奏者。広い人脈により、さまざまな調査能力に長けており、情報が早い。敬意を込め周囲は「記者」と呼ぶ。
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