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2021.06.10

米沢から発信する“ふるさとの味”
創業145年の老舗店がつくる万能たれとは

株式会社平山孫兵衛商店 代表取締役社長 平山 順一さん


株式会社平山孫兵衛商店 本社店舗前で平山社長

日本の食文化に欠かせない調味料である“醤油”。日本各地にさまざまな味があるなか、置賜地方を中心に地元の味として親しまれているのが“うまいたれ”です。卵かけごはんや豆腐にはもちろん、芋煮などの料理にもこれ一本と評判のご当地醤油について、株式会社平山孫兵衛商店の平山社長にお話を伺ってきました。


刀研師から醸造業へ大転換

平山孫兵衛商店の創業は明治9年。なんと145年を数える老舗企業です。城下町である米沢で醤油・味噌の醸造業をはじめたきっかけは、どんなものだったのでしょうか。
「当社のルーツは上杉家に仕えた刀研師の家系で、米沢市上杉博物館に所蔵されている上杉謙信公の愛刀『姫鶴一文字』のさやにも研師として平山孫兵衞の名前が記されています。廃刀令を期に“これからは人が生きるために必要な仕事を”との思いから、現在に至る醤油・味噌の製造販売『平山孫兵衛商店』を創業したと聞いています。」

鎌倉時代につくられたとする日本刀で、国の重要文化財に指定。指定名称は「太刀 銘一」(たち めいいち)で、外装も「打刀拵」(うちがたなごしらえ)の名称で重要文化財の附(つけたり)として指定されている。【米沢市上杉博物館 所蔵】

鎌倉時代につくられたとする日本刀で、国の重要文化財に指定。指定名称は「太刀 銘一」(たち めいいち)で、外装も「打刀拵」(うちがたなごしらえ)の名称で重要文化財の附(つけたり)として指定されている。【米沢市上杉博物館 所蔵】

「現在では“うまいたれ”を代表として、醤油・味噌の醸造を中心に、地元で一番愛用していただける『楽しい食卓のおてつだい』となる製品造りをおこなっています。」
平山孫兵衛商店では地元の小・中学校へ給食の材料として醤油・味噌を納めており、子どもたちの健やかな成長に貢献したいという思いから、生徒を対象として「醤油ものしり博士」と題した出前講座も実施しているのだとか。
「講座では大豆がどうやって醤油になっていくかの製造工程をはじめ、食文化の継承・発展を目指した内容を伝えています。参加した子どもたちには『しょうゆってこんな味がするんだ』『うちではこんな料理をするよ』など楽しんでいただけて、やりがいを感じますね。
地域の味を伝えるという意味で、微力ながら食文化に貢献できていると思える瞬間です。」

“うまいたれ”誕生秘話



置賜地方で生まれ育った筆者にとっても“うまいたれ”の香りは幼い頃から家庭料理の香りであり、お祭りで嗅いだ玉こんにゃくの香り。改めて、どんな経緯で生まれた商品なのでしょうか。
「世の中に『出汁入り醤油』が登場し、その人気が高まっていった昭和40年半ば頃、お客様の何気ない『平山さんのところでは出汁入り醤油をつくらないの?』という一言が開発のきっかけです。」
「担当の営業マンが思わず『やります!』と言ってしまったため後に引けなくなり、開発がスタートしたと聞いています。地元の方々にも試食していただくなど、研究と試行錯誤を経てつくりあげ、昭和47年に発売しました。」
約50年にわたって地元・米沢をはじめ山形県内、福島県北、仙台エリアなどで愛さるロングセラーですが、いわゆる全国的な大手メーカーの商品と比べたとき、“うまいたれ”にはどのような特徴があるのでしょうか?

“火入れ”という、醤油に出汁や調味料などを加えて味をつくっていく工程

“火入れ”という、醤油に出汁や調味料などを加えて味をつくっていく工程

「全国的には本醸造という、絞ったままの醤油が主流です。一方で“うまいたれ”は、醤油に出汁で旨味を加え、酒やみりんで味を調えた“つゆ”と呼ばれるもののひとつです。卵かけごはんやめんつゆ・天つゆ、炊き込みご飯、郷土料理である芋煮と、どんな料理にも使える商品設計になっています。」
「味のバランスで言えば“うまいたれ”は、出汁を効かせつつもしっかり醤油を感じる味。もともと地元で愛される味としてつくられた商品なので、今後も守っていきたい味です。さらに味で言えば、レシピ開発ということでチャーシューや焼き肉のタレなどを社員が試作したことがありました。実際に好評でしたので、“うまいたれ”には和食に留まらない使い方があると思いますね。」

火入れが終わり粗熱を冷ます“うまいたれ”。3日間ほど寝かせ、その後沈殿物を取り除く 火入れが終わり粗熱を冷ます“うまいたれ”。3日間ほど寝かせ、その後沈殿物を取り除く

火入れが終わり粗熱を冷ます“うまいたれ”。3日間ほど寝かせ、その後沈殿物を取り除く

webで広がる“ふるさとの味”の可能性

近年ではECサイトを立ち上げるなど、生活者の声に耳を傾ける姿勢を強めてきた同社。その反響をお尋ねすると、もっともよく買われるのは自宅用の詰め合わせセットなのだとか。
「最近では『うまいたれで作ってみた』といった動画を発信してくださる方がいたりと、本当にありがたいことにさまざまな反響をいただいています。
今後としても地元の方々に喜んでいただける、美味しいものを作り続ける姿勢を大切にしていきたいですね。それが日本全国で評価されれば、米沢の味として伝承していくことにもつながっていくと思いますから。それと今はコロナ禍で小売店や飲食店の方々が大変な思いをされています。そういった方々に少しでも寄り添えるような会社になれるよう頑張っていきたいです。」

平山孫兵衞の名前は当主として受け継いでいくもの。平山社長も近々襲名となるが、その際、法的には“改名”となるためさまざまな手続きがありとても大変なのだとか。

平山孫兵衞の名前は当主として受け継いでいくもの。平山社長も近々襲名となるが、その際、法的には“改名”となるためさまざまな手続きがありとても大変なのだとか。

明治の廃刀令にはじまって、大正・昭和・平成・令和といくつもの変化を乗り越えてきた平山孫兵衛商店。そして地域で愛され、いま多くの人にその魅力が伝わりはじめた“うまいたれ”。この関係性は時代に合わせて変わっていく事の大切さも、ブレない芯を持ち続けることの大切さも体現しているように感じました。時代も地域による垣根も超えて、心の拠り所となる“ふるさとの味”へ。皆が思い出を共有できる味と香りは、たしかにここに息づいています。

株式会社平山孫兵衛商店

山形県米沢市大町2丁目2-22

この記事を書いた人
おはなかいぎさん

おはなかいぎさん
Profile かいぎさんの中でいちばん自然を愛するキュレーター。土いじりのほかに、筋トレや映画にも精通している。最近の悩みは「自宅の周りを縄張りとする野良猫たちとの距離感」。
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