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2021.09.21シベールならではのおいしさを求め、人づくりに、お菓子づくりに猛進
株式会社シベール 代表取締役 小田切一哉さん
シベール本社、ファクトリーメゾンの入口にある看板前にて。シベールは山形県に9店舗、宮城県8店舗、山梨県に1店舗の計18店舗を展開しています
日本で初めて贈答用のラスクを発売し、ラスクブームを牽引した株式会社シベール。ラスクはもちろん焼き菓子やパンなどのおいしさでも知られる、山形を代表する洋菓子メーカーです。2019年、37歳で代表取締役に就任した小田切一哉さん。社長となり2021年で3年目を迎える現在のシベール、そして山形へ寄せる想いについてお伺いしました。
看板商品のラスクをはじめ、ケーキ、焼き菓子、生菓子などがズラリと並ぶ店内は、まるでお菓子のテーマパークのよう
運命的なシベールラスクとの出会い
「じゃあ、行ってきます」と、6歳の娘さんを保育園に預け、小田切さんが車を走らせ向かうのは、自宅のある山梨県甲府市から約500km、山形県山形市のシベール本社。週の半分はここ山形で過ごし、若き経営者としてその手腕を振るっています。
小田切さんがシベールと出会ったのは15年前、山梨県中央市の食品メーカー「ASフーズ」の社長(現在も兼務)だった25歳の時。営業で東北地方を訪ねた際に、蔵王松ケ丘のファクトリーメゾンに偶然立ち寄りました。「たくさんのお客さまが、買い物カゴいっぱいにラスクを入れていて。自分も家族のお土産に買って渡したら、すごく喜ばれたんです。」
以来、東北へ出張する度に購入するようになり「すっかりシベールのファンになっていた」と語ります。2019年、シベールが経営再建となった時も、すぐさまスポンサーとして名乗りをあげました。
「シベールには可能性がいっぱいあり、再建できる確信がありました。」
社名を残し、全従業員の雇用と全店舗の営業も継続しながら、同年6月、新会社として経営を開始。さまざまな立て直しを図り、冬には賞与を出せるようになり、翌3月には黒字決算になりましたと振り返ります。
変えるべきもの、守るべきもの
B to B(企業間取引)の卸売業をしてきた小田切さんにとってシベールのようなBtoC(企業対消費者取引)の小売業は、ずっとやりたかった商売。「食品メーカーにとって一番大切なのは、おいしいこと。そしてそのおいしいものを自社で売り、お客さまの反応を見ることができる。お客さまの顔が見えるものづくりに魅力を感じました。」
経営を続ける上で、改革すべきものもあれば、守るべきものもあると小田切さん。創業者の故熊谷眞一さんを初めて訪ねた時、「シベールのラスクが、なぜおいしいかわかる?」と問いかけられたそうです。熊谷さんは「本物のフランスパンだから。型に入れずのびのびと焼き上げるため、きめが粗く、大小の小さな穴が開く。この穴にバターが染み込み、焼いて砂糖をまぶして食べるからおいしい」と教えてくれました。
「お客さまにおいしいものを届けたい、という気持ちから試行錯誤してできたものだと、再認識しましたね。これだけはこれからも変えないです。」
「おいしいポケット」と呼ばれるシベールのラスクならではの大小の穴。ここにフレッシュバターがしっかりと染み込みます(写真提供:シベール)
ロングセラーの「ラスク フランス」シリーズ。パッケージは2020年、エコ素材を使ってリニューアルしました(写真提供:シベール)
2021年6月に発売した新商品「プチラスク」は一口サイズ。おつまみ感覚で楽しめると好評(左から山形いも煮風、フレンチサラダ、燻製ベーコン)(写真提供:シベール)
目指すのは、誰もが活躍できるダイバーシティ経営
「当時はみんな不安だったと思いますよ。突然、”37歳の社長“が登場したわけですから。」全社員との面談、トップダウンからボトムアップへの方式転換、決断の速さなど、持ち前の行動力で、会社をぐんぐんと引っ張ります。従業員からは「自分たちの声を吸い上げてくれるようになった」という感想も。
「2021年の11月には、本社工場内に“シベールキッズ”という託児所を開所する予定です。社員が子どもと一緒に出勤し、帰ることができるように。将来的には、弊社の従業員だけではなく、近隣の産業団地のお子さまも受け入れられるようにしていきたいと思っています。」
年齢や性別で社会的地位が決められてしまうことに違和感を抱き、特に女性の活躍に注力している小田切さん。「女性がもっと活躍できる会社にして、女性の取締役が登場すれば面白いですよね」。ベトナム人研修生などの受け入れにも積極的で、外国人はもちろん、高齢者や障がい者も活躍できる場をつくり、「自分なりの地域貢献ができれば」と願っています。
託児所は、敷地内1階部分(写真左側)に建設予定
「ムーミン」とのコラボ商品は、開発担当の女性社員のアイデアから生まれました。写真は山形県高畠町の株式会社セゾンファクトリーと3社コラボによるジャム。「今後は冷凍デザートとムーミンのコラボも予定しています」(写真提供:シベール)
新たな故郷、山形のために自分ができること
山梨のグループ企業をはじめ、全国各地の拠点を行き来する小田切さんに、山形の印象を訊ねました。
「山形の人は、すごく真面目。学校教育がいいのでしょうね、基礎学力が高い。シベールの社員たちもみんな真面目で勉強熱心です。外から来た時は少し距離があるけど、中に入るとみんなすごく温かい。自然環境も良くて、何より食べ物がおいしいですね。」
「山形は第二の故郷」とも。この故郷のために自分は何ができるか、それは「このシベールという会社を安定的に経営すること」と明言します。
「山形の真面目な職人たちが一生懸命つくるものを、我々は大切に売る、それだけです。」
世界第3位の「経済大国」と言われている日本。「年功序列にこだわっていては、あっという間に他の国から追い越されてしまう」と小田切さん。「私たちの世代から変えていかなければ」と、精力的にビジネスを展開しています。小田切さんの活躍が、若い経営者や起業家をたくさん登場させるきっかけになっていくのでは、そんな期待を感じさせました。
「みんなシベールのことが好きだし、一緒に会社を良くしようという気持で働いています」。社員が同じ一つの目標へ向かって進んでいる現在のシベール。「私は管理職ですが、(社員に)常に管理されていますから」と笑って話します
プロフィール
株式会社シベール 代表取締役 小田切一哉さん
1981年、リネンサプライ業を営む創業家の次男として山梨県甲府市で生まれる。山梨学院大学を卒業後、香港へ語学留学し、2004年に独資企業のプラスチック成形会社を経営。帰国後、株式会社ASフーズの代表取締役社長(2010年)、株式会社シベールの代表取締役に就任(2019年)。2男1女の父親。好きな山形の食べ物は「肉そば」。
勝負メシ 【スイーツ】
趣味は仕事と言い切るほど、ほぼ365日、休みなく働いている小田切さん。時間があれば全国の人気のパン屋さんやケーキ屋さんを巡り歩いているそうです。職業柄とは言え、やはり甘いものは大好き。「疲れた時に一番いいんです。山形にはパン屋さんやケーキ屋さんが多いので、訪ねるのが楽しみです。」